≪仲良しトリオの雑談2≫


 それはある日の昼休み。

「そういえば、智ちゃんて髪長いよね。洗うの大変じゃない?」
 璃琉羽がそんな質問をした。

 確かに智の髪は腰の辺りまであって。
 肩までしかない璃琉羽からしてみれば、相当長いだろう。

「うーん、別に特に大変とは思わないけど……」
 首を傾げながらそう言う智に、今度は朱夏が口を開く。
「私も一時期、髪の毛伸ばしてたから分かるけど、髪洗うだけで10分以上はかかるでしょ」
「え、そうなの!?」
 驚く璃琉羽に、智は苦笑しながら答える。
「確かに、シャンプーしてトリートメントして、ってやってると10〜15分くらい経っちゃうけどね」
「凄いね〜」
「洗い流すのが一番時間掛かるのよね。私、髪切った時、凄く簡単に頭洗い終わっちゃってビックリしちゃった」

 ショートヘアの朱夏なら、頭を洗うのにきっと5分も掛からないかもしれない。
 それを考えると、あながちその言い分も大げさではないだろう。

「あ、じゃあ髪の毛乾かすのにも時間掛かるの?」
「えっと……でもドライヤーで5分くらいで乾いちゃうよ?」
 智の感覚としては、そんなに時間は掛からない、という意味での発言だったのだが。
「そんなに掛かるの!?」
 髪の短い璃琉羽にとっては、そうではないらしい。
「そんなにドライヤー当ててたら、髪の毛熱くならない?」
「別に一点に集中して当ててる訳じゃないし」
「でも、腕は疲れない?」
「そうでもないけど……」

 髪が長い事が当たり前のように慣れてしまっている智と違って、髪の短い璃琉羽には考えられない状況らしい。
 朱夏は髪が長いのも短いのも経験済みだから、双方の意見が分かるのだろう。
「慣れちゃうと確かに苦労は全く感じないのよね。でも、短いと確かにかなり楽よ」
 そう言ってクスクスと笑った。

「ね、智は髪、切らないの?」
 朱夏のその質問に、智は困ったように言う。
「切った方が楽だろうなって思う事は確かにあるんだけど……長い方が落ち着くかな、やっぱり」
「じゃあ短くした事あるんだ」
「あるっていうか……毛先を切り揃える為に、たまに髪を20センチくらい切るんだけどね?それだけでなんだか落ち着かない気分になるの」
 すると璃琉羽が驚いたように言う。
「そうなの?凄いね。毛先を切り揃えるのにそれだけ切っても、長いままなんて」
 私なんてその半分だけで朱夏ちゃんと同じになっちゃう、という璃琉羽に、智も朱夏も笑ってしまう。

「でも智ちゃんの髪って綺麗だよね。真っ直ぐな黒髪」
「そう?」
「いいなぁ。私の髪はちょっとふわってなってるでしょ?真っ直ぐって憧れる」
 ぷぅっとむくれたように言う璃琉羽に、朱夏が羨ましそうに言う。
「えー?璃琉羽の髪も可愛いと思うわよ?お人形さんみたいで。私なんてショートしか似合わないから」
 だがその言葉に、璃琉羽も智も反論する。
「そんな事ないよ!長い髪も似合うと思う」
「うんうん。写真で見た髪が長い頃の朱夏、可愛かったよ?」
「白山君もあの時、髪切ったの勿体ないって言ってたしねー」
「あの写真、結局どうなったんだろうね?」
「どうだろ?今度、緋久君に聞いてみようかなぁ」
 ずれ始めた話の内容に、朱夏が不機嫌になる。
「写真の事はどうだっていいでしょ」
 その反応に、璃琉羽と智はこそこそと小声で話す。
「……緋久君、白山君に写真渡したみたい」
「だね。それを朱夏が見つけて、没収しようとしたけど上手く言い包められて、できなかったって感じかな」
「……二人共。何をこそこそ話してるのかなぁ?」
 笑顔で、でも口元を引き攣らせながらそう言う朱夏に、璃琉羽と智は慌てて話を逸らす。
「そろそろお昼休み終わりだねっ。次の授業って何だっけ」
「英語だよ。今日は宿題って出てたかなっ」
 二人のその様子に、朱夏はやれやれと苦笑した。


 他愛無い会話。
 何気ない質問。
 それでも盛り上がるのは、仲が良い証拠。


=Fin=


姫中 璃琉羽(ひめなか りるは)……月羽矢学園高等部二年。「メル友」に登場。

南里 智(みなみさと とも)……月羽矢学園高等部二年。「俺と彼女と彼女の事情」に登場。

絹川 朱夏(きぬかわ しゅか)……月羽矢学園高等部ニ年。「コンプレックス」に登場。