≪きっかけ≫
達哉と寿子が内緒の付き合い始めて、約四ヶ月。
達哉は進級して二年生になり、寿子も教師生活二年目に突入していた。
ある日寿子の部屋で、達哉は彼女の高校時代の卒業アルバムを見つけた。
「え、寿子って月羽矢学園の卒業生?」
「ええ。教育実習も月羽矢の高等部でやったわ」
そう言う寿子に、達哉は教育実習がどんな感じだったか尋ねる。
「どうって……別にフツーよ?」
「どんな先生に指導してもらったの?」
「結構年の、おじいちゃん先生よ?それがどうかした?」
指導教官がおじいちゃん先生だと聞いて、達哉は内心胸を撫で下ろす。
もし若い男の先生だったら、はらわたが煮えくり返っている所だ。
「あ、でも……弓道部の副顧問の先生は、ちょっとカッコ良かったな」
達哉の心情などまるで察知していない寿子は、のほほんとそう言う。
「……男?」
「そうだけど?……教育実習の間って、ずっと指導教官の後をくっ付いて回るから、あんまり他の先生方との交流はなかったんだけどね。おじいちゃん先生が弓道部の顧問で、その時にちょっとだけ」
「……カッコ良かったって?」
達哉の機嫌はどんどん悪くなっているのに、寿子は気付かずに話を続ける。
「若いのに恐い感じの先生だなーって思ってたら、意外に生徒の面倒見が良くて、好かれてて。私もあんな風になれたらなーって憧れたの」
「ふーん……」
寿子にしてみれば、教師としての威厳を保ちつつも、生徒から好かれる彼が格好良くて、教師として憧れる、といった発言だったのだが。
「そいつ、何て名前?」
「えっと……早坂先生よ、確か。おじいちゃん先生はもう定年退職したはずだから、きっと今は弓道部の正顧問ね」
思い出すようにそう言う寿子に、達哉はいよいよ不機嫌になる。
マジでムカつく。
こうなったら、その“早坂”って教師、どれ程良い男か見物してやろーじゃねーかっ!
そうして達哉は、五月の初めに弓道の大会がある事を調べ上げ、そこで早坂なる教師の顔を見る事にした。
「……で、何で俺がお前のお供をしなくちゃならないんだ?」
「いいから、いいから。俺達親友じゃん。な、礼義」
流石に一人で行く事を躊躇われた達哉は、親友の伏見礼義を誘って弓道の大会が行われる弓道場を目指した。
勿論理由は内緒で。
「……何か俺達、場違いじゃね?」
「いいから行くぞ」
尻込みする礼義を引っ張り、入り口から中に入る。
そこには応援に来たのだろう、父兄の姿もちらほらと見受けられた。
……といっても、静かに見守るだけだが。
流石に控え室になっている場所は、射場や、射場を横から見られる通路とは違って、幾分騒がしかった。
その中で達哉は、月羽矢学園の生徒の集団を探す。
中々見付けられずにいると、いつの間にか礼義の姿がなかった。
「あの野郎……帰ったな?」
そうは思うものの、武道関係はあまり好きじゃないと知っていて連れて来た事に多少の引け目を感じて、放っておく事にした。
そうしてようやく、目的の人物らしき男を見つけて、その顔をじっと見る。
「……確かに目つき悪くて冷たい感じ。あれで生徒に好かれてるって……?顔はそこそこだけど……めちゃくちゃ良い男でもないな。これなら安心かもな」
そうして自己満足して帰ろうとした時。
「てか、弓を引いてる姿が凛としててすっげー綺麗で一目惚れしました!付き合って下さいっ!いえ、お友達でもいいんでチャンス下さい。……ごめんなさい、名前だけでいいんでマジ教えて下さい」
聞き覚えのある声に振り返ると、礼義が女の子に頭を下げて、告白していた。
「……あいつ、何やってんだ……?」
呆然とそれを見ていると、どうやら断られそうな雰囲気で。
「礼義……もうちょっと考えろよー……」
そう呟いて達哉は、あちゃー、っといった感じで顔を片手で覆う。
だが。
女の子の傍に別の子が現れて、予想に反して礼義の告白は成功してしまった。
そうして携帯の番号を交換して、女の子達と別れて一人浮かれている礼義に近寄る。
「お前、何やってんだよ」
「お、達哉!今日はありがとな、ここに連れて来てくれて!いや〜やっぱ持つべきものは親友だよなっ!」
「……良かったな。最初断られると思ったけど」
「う゛っ……それは俺も思ったけど……ま、結果オーライ?」
そう言って嬉しさに顔をにやけさせる礼義に、達哉はやれやれと思った。
人生、何がきっかけになるか分からない。
=Fin=
礼義が弓道場に連れて来られた理由