今でこそ仲良し三人組の朱夏・智・璃琉羽の三人。
三人が初めて顔を合わせたのは、同じ弓道部の新入部員としてだった。
それもそのはず、朱夏は初等部からの内部生。
智と璃琉羽は高等部からの外部受験組みだからだ。
おまけに智は県外からの寮生。
しかもクラスは別々で。
だが入部当初から仲が良かったわけではない。
さて、その仲良くなったきっかけとは……?
≪仲良しトリオ結成!≫
それは、一年生にとって初めての大会となる弓道部の試合の時だった。
弓道の試合はとにかく待ち時間が長い。それは大きな大会になればなる程、より顕著だ。
出番が回ってくる前なら、射形の見直しや、大会の場所によっては練習場が開放されている。
だが自分達の出番が終わってしまうと流石に、結果が出るまで何もする事がない。
弓道は何よりも、自分自身との戦いといっても過言ではない。
己の肉体と精神と技術がモノをいうのだ。
確かに有段者の射が見られるのであれば、それは大変勉強になるだろう。
だがそれも真正面から見れてこそだ。
通常、大会で他人の射を正面から見る事は出来ないからだ。
とにかく、待ち時間解消の為に朱夏は得意のお菓子を作ってきた。
誰でも簡単につまめるようにと、市松模様のクッキーを。
それを、全員が射を終えてから振舞う。
「クッキー作ってきたんだ。結果が出るまでまだまだ時間掛かるし、暇潰しに皆、どうぞ」
だが。
「これ絹川が作ったのか?……本当に食えんのか〜?」
一番最初に気付いた男子部員がそう言うと、他の男子部員も口々に言い始める。
「てかさ、絹川がお菓子作り?似合わね〜」
「変なモンとか混ざってないだろうな」
「ちょ……っ!」
その事に朱夏が抗議しようとした時だった。
「わぁっ、美味しそう!ね、ね、食べていいの?」
出端を挫かれて、朱夏は毒気を抜かれて呆然とする。
「え……あ、うん」
「いっただっきまーす……美味し〜っ!ね、どうやったらこんなに美味しく作れるの?」
「あ、あたしも食べるっ!うわぁ、本当に美味しそう……うん、美味しいっ」
「絹川さんて、こんな特技あったんだね」
遅れて気付いた最初の女子部員を皮切りに、皆が美味しいと食べ始めた。
流石にその事に、悪口を言っていた男子部員達も喉を鳴らし、食べようとする。
「ま、まぁ折角作ってきたんだしな。食べてやるよ」
「そうそう、食べなきゃ勿体ないもんな」
そうして手を伸ばそうとしたその時。
「さ、さっきまで悪口言ってたの、謝らないんですか……っ?」
震えた様子で、それでも懸命に一人の女子部員がそう言った。
「え?いや、だって……なぁ?」
「絹川だしなぁ?」
それでもまだ反省の色を見せない男子部員達に、最初にクッキーを食べた女子部員が言う。
「人の事貶しておいて、それはないんじゃないかなぁ?」
ニッコリとそう言う彼女に、男子部員達は多少たじろいだ。
流石に罪悪感はあるらしい。
「絹川さんは、何にも言わなくていいの?」
先程、男子部員に震えながら抗議した女子部員の子に言われて、呆然と成り行きを見ていた朱夏はニッと笑う。
「……そうね。別に無理して食べてもらわなくても、美味しいって言って食べてくれる人はいる訳だし?というか……アンタ達に食べさせるなんて勿体なさ過ぎるわ。
今後作ってきても、アンタ達には一切あげないから、そのつもりで」
その言葉に、男子部員達から抗議の声が上がったが、自業自得。女子部員達から批難される事となった。
クッキーがすっかりなくなってから朱夏は、先程男子部員達に抗議してくれた二人にお礼を言う。
「あの、さっきはありがとう」
「ううん、いいよ別に。クッキー、美味しかった」
「そうそう。それなのに……ちょっと男の子達、酷いと思ったから……」
おっとりした感じの女の子と、少し大人しめの女の子。
二人とも高校からの外部生で、部内ではまだそんなに皆に馴染んでない。
朱夏もどうしても昔から付き合いがある内部生の子達と一緒にいたから、名前はうろ覚えだ。
「確か……姫中さんと、南里さん、だっけ?本当にありがとう。私ってちょっと勝気な性格だから、あんまり人に庇ってもらった事がないっていうか……だから嬉しかった」
朱夏が照れたようにそう言うと、二人は少し驚いた表情になってから、笑顔で言う。
「璃琉羽で良いよ。私も朱夏ちゃんって呼んでいい?これから仲良くしようよ。何かあったら、また味方になるよ?」
「私も。これからは智って名前で呼んで?二人ともっと、仲良くなりたい」
その言葉に、朱夏は満面の笑みを浮かべた。
「璃琉羽、智。これからよろしくねっ!」
=Fin=
三人が“弓道部仲良しトリオ”と称されるようになるのは、すぐの事。