≪一枚の写真≫


「時音〜っ!ちょっと、ちょっと!」
 その日時音が学校に行くと、親友の遊菜に突然人気のない廊下まで引っ張ってこられた。
「どうしたの。そんな慌てて」
「コレ!」
 そう言って遊菜が見せたのは、とあるティーン向け雑誌だった。
「これがどうかしたの?」
「これってどういう事?」
 パラパラとページを捲って指差したのは、“街で見かけたベストカップル”というコーナーだった。
「……これがどうかしたの?あ、もしかして遊菜が知らない間に写真撮られて、コレに載ってたとか?」
 楽しそうにそう言った時音に、遊菜は首を横に振る。
「違うの……この写真……」
 そうして遊菜が指し示した写真。
「え……?」
 そこには。
「何、コレ……!」
 他でもない道行が、見知らぬ女の子と写っていた。

「昨日、バイト先でこの雑誌読んでて見つけたんだけど……時音は何か知ってる?」
「……知らない……」
「そっか……ごめん」
「何で遊菜が謝るのよ」
「だって……」
 顔を歪めて俯く遊菜に、時音は明るく言う。
「悪いのは道行なんだから」

 そう。悪いのは、私という彼女がいるのに、他の女の子と写真に写ってる道行。

「……久我君に聞くの?」
「……聞かない」
 というより、聞けない。

 何故なら、少しでも疑おうものなら、どんなお仕置きを受けるか分からないからだ。
 例えそれが、100%道行に非がある事でも。

「絶対に上手く言い包められて、こっちの立場が悪くなるから」
「何の話?」
 突然後ろからそう声がして、時音はビクッと肩を震わす。
「……っ……」
 引き攣った顔でゆっくりと振り返れば、そこにはやはり道行がいて。
「何を見てるんだ?」
「あっ……!」
 あっさりと雑誌を取り上げられてしまった。
「……ふーん……時音」
「……何でしょうか」
「今度の週末、デートしようか」
 ニッコリと満面の笑みでそう言われて。
 だが、何故かそれがとても恐ろしいものに思えて。
「……はい……」
 時音は力なく返事した。


 デートの日。
 時音は時間より少し早く待ち合わせ場所にいた。

 遅れると何言われるか分かんないし。

 そうして周りを見回すと、時音と同じように、待ち合わせらしき人が何人かいた。

 約束の時間の少し前になって、時音は遠くから歩いてくる道行の姿を見つけて絶句した。
「何で……」
 道行は、女の子と一緒だった。
 それもどうやら、雑誌に一緒に写っていた子。

 もしかして、別れ話でもされるのだろうか?
 新しい彼女との仲を見せ付けられて、お前なんかもう要らないと言われるのだろうか?

 泣き出したくなる気持ちを抑えて、取り敢えず話を聞こうと歩き出そうとした時。
 時音の傍で、同じように誰かを待っていたらしい男の子が駆け出した。
 呆然と見ていると、その彼は何と道行に突然殴り掛かって。
 道行はあっさりと避けたが、その彼は怒りを露わにしていた。
 時音は慌てて傍に駆け寄る。
「お前!人の彼女に手を出す気か!?」
「恭一さんっ……これは」
「千春はちょっと黙ってろ。ああ、時音。早かったね」
「……どういう、事?」
 四人の中で、道行だけが落ち着き払っている。
「お前、他の女の子にも……!?」
「失敬な。俺の女は時音だけだけど?」
「じゃあ何で千春と……!」
「まぁ……千春とは切っても切れない関係だしな」
「テメェ……!」
 道行と見知らぬ彼の雰囲気が、いよいよ本格的に悪くなり始めた頃。

「もういい加減にしてよ、お兄ちゃん!」

 それまではただうろたえていた彼女が、そう声を上げた。
「「お兄ちゃん!?」」
 それを聞いて、時音とその彼は思わずハモってそう言う。
「何だ千春。もうバラすのか」
「だって、恭一さんに誤解されたくないもん!」
「……ま、という訳だ」
 至極つまらなさそうに道行はそう言う。
「さて時音、俺達は行こうか」
「え、でも……いいの?妹さん……」
「どうせあっちもデートだしな。というか、妹のデートなんかに興味はない」
「あっそう……」
 散々妹の彼氏で遊んでおきながら、何を言ってるんだとも思ったが。
 道行の次の一言に、時音はサーッと血の気が引いた。

「それよりも俺は、大した嫉妬もしないで、しかも俺の事を100%信用しているわけでもないのに、あの雑誌について何も言わない時音に興味があるんだが……?」

 その表情は、物凄く何かを企んでいる時の表情で。
 時音は慌てて言う。
「いや、ね?別に全く気にしてなかった訳じゃなくてね?聞くのが怖かったかなーっていうか……」
「俺の事、疑ってた訳だ」
「そそそそういうんじゃなくてね!?えっと、その、何ていうか……」
「ちなみに」
 テンパってる時音に対して、道行は簡単に写真の事について説明する。
「前に千春が事故にあって。その全快祝いに、家族で食事に出た時にたまたま撮られただけ。もちろんあの雑誌の編集元には抗議の電話を入れたけどね」
「そーなんデスカ」
 時音はもう、これから起こるであろう事に対して、冷や汗を流している。

「まぁ取り敢えず……バツとしてお仕置きね?」

 その言葉に、時音はもう力なく項垂れるしかなかった。


=Fin=


時音ちゃん、ガンバレ(笑)


上条 時音(かみじょう ときね)……月羽矢学園高等部ニ年。「ご〜いんぐ☆まいうぇい」に登場。

久我 道行(くが みちゆき)……月羽矢学園高等部ニ年。「ご〜いんぐ☆まいうぇい」に登場。

甲斐 遊菜(かい ゆうな)……月羽矢学園高等部二年。「New one side」に登場。

久我 千春(くが ちはる)……道行の妹。恋愛shortstory「LOVE☆ゴースト」に登場。

野上 恭一(のがみ きょういち)……千春の彼氏。恋愛shortstory「LOVE☆ゴースト」に登場。