≪その理由≫
「ねぇ久……道行?何で前期の副委員長は宗方君を指名したの?」
きちんと付き合う事になって数日。
放課後、クラス委員の仕事で残っていた時音は、一緒に残っていた道行にそう聞いた。
「……時音。今、また“久我”って言いかけたな?」
「う゛……で、でもちゃんと名前で呼んだじゃない!」
正式な恋人同士になったんだから、と、道行はそれまで“久我”と苗字で呼んでいた時音に、名前で呼ぶように強制した。
『もし苗字で呼んだら、お仕置きな?』
ニッコリと黒い笑顔でそう言われ、時音はいつも何とか途中で名前で呼ぶ事に成功している。
「やれやれ……今度から苗字を言いかけただけでお仕置きにしないとダメかな」
「そ、それよりさっきの質問!何で?」
道行の言葉によからぬモノを感じて、時音は慌てて話を元に戻す。
「……まぁいい。何でかって?そんなの決まってるじゃないか」
道行はそう言ってニヤリと口の端を上げる。
「ただの女除け」
「……うっわ、言い切る?」
顔を顰める時音に対して、道行はアッサリと言う。
「当たり前だろ。学園でも有名な不良として通っている緋久が傍にいれば、女は簡単には近寄ってこないだろう?」
言っている事は分かる。
分かるのだが。
「……それって、利用された宗方君が可哀想じゃない?」
というか。
「アンタは怖くなかったの?宗方君の事」
すると、ある意味凄い答えが返ってきた。
「は?何で俺がアイツを怖がらなきゃなんねーんだ?」
「……そうよね。アンタはそーいう奴よね……」
脱力してそう言う時音に対し、道行は思いもよらなかった事を言う。
「てかさ。アイツ別に不良でも何でもねーし」
「……え?」
一瞬聞き間違えたのかと思った。
彼が不良でないというのなら、学園で有名なあの噂はどこから出てきたものなのだろうか?
「あの噂は全てが真実じゃない。俺はそれを知っている。……大体さ、考えてもみろよ。本当に奴が不良で噂が本当なら、今頃退学処分じゃねぇの?他校生二十人以上病院送りにしてるんだぜ?」
「……」
確かに。
時音自身も、実際に宗方本人を目の当たりにした時、噂が本当なのかどうか疑いたくなった。
「ま、どの道アイツにも副委員になるメリットはあった訳だし?」
「え、何それ」
「自身のイメージの向上」
「……?」
だが、言われても時音は何の事だか分からない。
退学処分になっていないという事は、教師陣は真実を知っているのだろう。
では、誰に対して?
噂が始まったのは二年前だし、今更イメージの向上といっても、遅すぎるだろう。
「……まぁ、あまり意味は成さなかったかもな。結局は自分の力で何とかしたわけだし」
「???」
道行の言葉に、時音は益々意味が分からなくなる。
「……結局どういう事?」
「んー、一言で言うなら、色事?」
「色……っ!?」
その言葉に真っ赤になった時音を、道行はすかさずからかう。
「へーぇ?色事の意味、知ってるんだ。冗談で言ったんだけど……」
「……っ!うるさい、久我の馬鹿!」
思わずそう言って、だが、時音は自分の発した言葉にハッとする。
「……今、“久我”って言ったな?」
嬉しそうな声に、時音が恐る恐る道行の顔を見ると、それはもう素敵なくらいに黒い笑みが浮かんでいた。
「さて……どんなお仕置きがいい?」
=Fin=
この後時音は、どんなお仕置きをされたんでしょうか?(笑)