≪学園寮≫


 夏休み。学園の男子寮を出た所で、愁は二人組みの不審な男達を見つけた。

「おい、アンタら何してんだ」
「……ここの人?」
「ああ。……女子寮に何しに行く気だ?」

 二人組みの男達が向かっていたのは、どう見ても女子寮の玄関方面。
 夏休みで帰省している寮生が大半だから、もしヤバイ奴らだったら面倒だ。

「何しにって……家族に逢いに決まってるだろう」
「……外来玄関は中央棟なんだけど」

 月羽矢学園寮は、三つの棟から成り立っている。
 左に女子寮。右に男子寮。
 その二つの寮を、中央棟で繋いでいる。
 中央棟には食堂とサロンがあり、寮生の交流の場となっている。
 それぞれの棟に入り口は勿論あるが、外来の面会などは必ず中央棟で呼び出してもらう事になっている。

 なのに。
 彼等はそれを知らされていないのだろうか?

「取り敢えず、中央棟に案内します。誰を呼び出しですか?」
「「南里智」」

 そこだけ綺麗にハモった事に、愁は内心驚いた。


「あ、ちょっと。南里呼んでくれる?」
「はい」

 丁度女子寮生がいたので、愁は智を呼ぶように頼む。

「多分すぐ来ると思いますんで」

 そうして、一、二分もしない内に智がサロンに現れた。

「お兄ちゃん!?忠!?どうして……」
「南里。お前家族の人が来んなら、ちゃんと説明しとけよ。直接女子寮に行こうとしてたぞ」
「あ……ごめんね、白山君」

 すると突然、険悪そうな表情の仁と忠が愁に絡んできた。

「お前智の何?」
「馴れ馴れしくしてんなよ」
「はぁ?いきなり何言ってんだよ、アンタら。南里には悪いけど、頭おかしーんじゃねぇ?」
「何だと?」

 まさに一触即発の雰囲気。
 その睨み合いを止めたのは智だった。

「ちょっとやめてよ!二人とも変な勘繰りしないで!白山君は同じクラスの人で、私の友達の彼氏なの!」

 すると、途端に興味が失せたように仁が言う。

「……何だ。それならそうと、最初から言えよ」
「あぁ゛!?」

 その言葉にカッとなった愁を、智が必死に宥める。

「ほ、ほら白山君、明日帰省するから今日は朱夏とデートなんでしょ?遅れちゃうよ?」
「う……じゃあな、南里」

 外に出た本来の目的を思い出して、愁は慌てて出かけて行く。
 それを見送ると、智は兄弟達に向き直った。

「……で、何でココにいるの?」
「何でって……智が家に帰ってこないって言うから、逢いに来たんじゃないか」
「……いつまでいるの?」
「一応一週間を目処に」
「……どこに泊まるの……?」
「カプセルホテルとかあるだろ。別にオールで映画でもいいし?あ、ココの寮の人に話して泊めて貰うか?」
「取り敢えず、久しぶりに逢えたんだ。そんな事より遊びに行こう?」
「……」

(礼君にデート出来なくなっちゃったって、メールしなきゃ……久しぶりのデート、楽しみにしてたのになぁ……)

 こうして約一週間、智は仁&忠に付き合わされる事となった。


 ちなみに愁の方はというと。

「悪い朱夏!……待った、よな……」
「……遅刻」

 不機嫌な表情の朱夏に、愁は溜息を吐いて言う。

「あー……一応言い訳させてくれ。寮を出たら、南里の家族が面会に来てて。ちょっとごたついた」
「……絡まれた?」
「ああ」
「やっぱり」
「……やっぱりって?」
「んー。前に智から聞いた事があるの。智の兄弟って、すっごいシスコンなんだって」
「……あぁそれで……」

 話を聞いて、愁は少しげんなりとする。

「ま、それに免じて今日の遅刻は許してあげる。あーでもちょっと見てみたいかも。シスコンの兄弟」
「出来れば俺はもう関わりたくないね。ほら、行くぞ」
「うんっ」

 そうして二人はデートの為に歩き出した。


=Fin=


ある夏休み(お盆頃)の一コマ。


白山 愁(しらやま しゅう)……月羽矢学園高等部ニ年。寮生。「コンプレックス」に登場。

南里 智(みなみさと とも)……月羽矢学園高等部二年。寮生「俺と彼女と彼女の事情」に登場。

南里 仁(みなみさと ひとし)……智の兄。「俺と彼女と彼女の事情」に登場。

南里 忠(みなみさと ただし)……智の弟。「俺と彼女と彼女の事情」に登場。

絹川 朱夏(きぬかわ しゅか)……月羽矢学園高等部二年。「コンプレックス」に登場。