≪姉と弟≫
それはいつものようにコンビニのバイトをしている時だった。
「いらっしゃいませー……」
そう言って、入ってきた客を見て貴寿が物凄く嫌そうな顔をした。
「げ……遊菜、後ヨロシク」
「ちょ、先輩!?」
突然、裏に引っ込もうとする貴寿に、遊菜はワケが分からない。
先程入ってきた客は、スーツを着た若い女性だ。
その女性に対して嫌な顔をしたという事は。
「……先輩の元カノ、ですか?」
遊菜がそう聞くと、貴寿はさらに嫌そうに顔を歪めて即答した。
「死んでも違う」
そんな風に話していると、突然声を掛けられた。
「あれ?貴寿じゃない。何、ココってアンタのバイト先?」
親しそうにそう話しかけてくるその女性に、今度は遊菜が複雑そうな表情をする。
それを見て貴寿は溜息を吐いて言う。
「……コンビニで済ますんじゃなくて自炊しろよ姉貴」
貴寿のその言葉に、二人がそれぞれ反応する。
「お、お姉さん!?先輩、お姉さんいたんですか?」
「ちょっと貴寿!いつもいつもコンビニで済ましてるみたいな言い方しないでよ!」
「……一人ずつ喋ってくれ……」
そんな貴寿の反応に、二人は思わず顔を見合わせる。
「あ……えっと、私は後でいいです」
「いや、あの、私も別に特にコイツと話す事もないんだけど……」
「じゃあ早く帰れ。大体、姉貴のアパートこの辺じゃないだろ?」
だからこそ、貴寿は姉である寿子がココに買いに来るとは予想だにもしていなかったのだが。
「ふーん……姉に向かってそういう事言うんだー……ふーん」
「な、何だよ……」
半眼になってそう言う寿子に、貴寿は少し嫌な予感がする。
何だかんだ言って、貴寿は寿子に逆らいきれない部分がある。
「今日っていつ上がり?」
「あと少し、だけど」
「車よね?」
「……まぁ」
「じゃ、送ってって?」
「えー……」
「送っ・てっ・て?」
「……分かったよ」
強く言われて貴寿は折れる。
この日は珍しく、遊菜よりも貴寿の方が早く上がるシフトだった。
だから帰りに遊菜を送ってあげる為に車で来たのだ。
それなのに。
……タイミングの悪い。
結局、貴寿はバイトが終わってから寿子を送る事になって。
「遊菜。送ってきたらソッコーで戻ってくるから」
「はい。あ、先輩。後でお姉さんの事、話してもらっていいですか?」
「勿論」
「ちょっと貴寿ー?何してるのー?」
「チッ……じゃあ遊菜、また後で」
「気を付けて下さいね」
遊菜に見送られて、貴寿は渋々と店を出た。
後に残された遊菜は、貴寿の新しい一面が見れて嬉しい、と思いながら、後で話が聞ける事が楽しみだった。
=Fin=
姉に逆らえない弟の図