≪高校≫
定期テストは各学校ごとに日程が違うのは当たり前で。
テスト最終日を迎えたこの日、智は学校が半日で終わると上機嫌だった。
その理由は、テストを終えた事による開放感も勿論あるだろうが、本音を言えば礼義に普通に逢える事の方が嬉しいのだ。
テスト週間中は勿論部活はないし、何といっても勉強しなくてはならない。
礼義とは学校が違うのだから、授業内容も違って当たり前。
そうすると、テスト勉強は朱夏や璃琉羽と一緒にやる方が遥かに効率がいいのだ。
しかも朱夏は常にクラスで一番の成績なのだし、教えて貰うに越した事はない。
そういう訳で智は、礼義と久しくまともに逢っていないのだった。
早く逢いたいという気持ちばかりが急いて、智は一度寮に戻って私服に着替えると、授業が終わる時間を見計らって礼義の高校へと足を向ける。
「礼君の学校に突然行ったら、驚くかなぁ?」
驚かす為に、連絡を敢えてしないで。
そうして礼義の通う都立高の校門前に着くと、丁度授業が終わったのか、パラパラと生徒達が出てくるのが見えた。
「礼君、まだかな」
だがここで、智はすぐに自分の行動を後悔し始めた。
知らない高校の校門前で人を待つ、というのはかなり度胸のいる行動だったのだ。
校門前に見知らぬ女の子が立っていれば、誰だって視線を向ける。
しかも智は今私服だ。目立たない訳がない。
……まぁ、月羽矢の制服姿でも同じくらい目立つだろうが。
とにかく、自分に向けられる視線が居た堪れなくなって、どこか別の、目立たない場所に移動しようとした時。
「ねー、かーのじょ。誰待ってんの?」
一人の男子生徒が声を掛けてきて、智は固まってしまった。
知らない異性に声を掛けられるのは、どうしても慣れない。
すると、興味を持たれたのか、今度は別の人が寄ってきた。
「お前ナンパじゃねーんだからよ。で?誰待ってんの?呼んで来ようか?」
「え、あの……その……」
だが智は、思わず俯いてしまう。
「ヤバ、怖がらせちゃった?ごめんっ」
声を掛けてきたその彼は、慌てたようにそう言う。
すると今度は女の子の声がした。
「りょーちゃん、何してるの?」
「若葉。何かこの子、誰かを待ってるみたいなんだけどさ。こいつがナンパしてて」
「ちっげーよ!」
「若葉、代わりに誰を待ってるのか聞いてくれない?」
「うん、いいよー。ねぇねぇ、誰を待ってるの?」
顔を上げると、人懐っこそうな笑みを浮かべている女の子が目の前にいて。
智はホッとして口を開きかける。
と、再び別の男子生徒が現れた。
「涼太、相田。何してんだ?……ん?この子、どっかで見た気が……」
そうしてその彼は智を無遠慮に見回すと、突然大声で叫んだ。
「あーーーっ!思い出したっ!礼義の彼女っ!」
その声にさらに野次馬が集まってきて、智は羞恥に頬を染め、どうしていいか分からなくなる。
「待ってて、すぐ礼義呼んでくるからっ!その間、涼太と相田で彼女を死守!」
「おっけ〜」
「分かった」
取り敢えず会話の内容から、礼義がすぐに来る事だけは分かって、多少安堵した。
礼義が来るまでの数分、智の事を頼まれた二人は野次馬を散らせて。
「私、相田若葉っていうの。こっちは平松涼太っていって、私の幼馴染で彼氏なの。で、さっき伏見君を呼びに行ったのが小岩井達哉君っていって、
私達、伏見君とはクラスメイトなんだよ?」
「あの……礼君の彼女の、南里智っていいます」
「やっぱり彼女さんなんだー。えと、智ちゃんて呼んでいい?私の事は若葉でいいから」
「うん、ありがとう、若葉」
若葉の人懐っこい雰囲気に、智は次第に気分を楽にさせる。
「そうだ、智ちゃんは学校どこなの?」
「えと、月羽矢学園なの」
「私立の?すごーい!そうだ、やっぱりバスケ部って強い?」
「え……バスケ部?うん、強いと思う」
「やっぱりそうなんだー。えっとね、りょーちゃんもバスケ部でね?バスケの試合の話になると、絶対に月羽矢学園の名前出すんだよ。名コンビプレイヤーがいるって」
「あ、それ……私の友達の彼氏の事だと思う」
「本当?ね、ね、どんな人?」
「どんな人って言われても……」
そうして緋久の事を思い浮かべようとした時。
「智ちゃんっ!」
「……礼君っ」
遠くから礼義が走ってくるのが見えた。
「智ちゃん、急に来るからビックリしたよ」
「……ごめんね?今日でテスト終わったから、ちょっとビックリさせようと思って……」
シュンとする智に、礼義は笑顔で言う。
「ううん。逢いに来てくれて嬉しい」
とそこへ、達哉がようやく追いついてきた。
「礼義、お前そんなに足速かったっけ?それとも愛しい彼女に逢う為か?」
からかうようにそう言う達哉に、礼義も智も頬を真っ赤にする。
「悪いかっ。……でも、ありがとな。教えてくれて。涼太も相田さんもありがとう」
「俺がちゃんとお前の彼女の事、憶えてたおかげだからな」
「俺は殆ど何もしてないよ」
「私は、智ちゃんとお話できて楽しかったよ〜」
礼義のお礼の言葉に、三人はそれぞれそう言った。
別れ際、智と若葉は番号とメルアドを交換して。
「またお話しようね?」
「うんっ」
そうして手を振る。
「相田さんと仲良くなったんだ」
「うん。凄くいい子だね」
「よかったね。友達増えて」
「うん。最初はちょっと校門前で人目を引いちゃって来たの後悔したけど……でも、来てよかった」
「そっか」
そうして二人は、久し振りのデートを楽しんだ。
お互いの高校が違うと。
人の輪がさらに広がる気がする。
=Fin=