≪駆け引き≫


 それはバスケ部の練習の休憩中の事。
「……あーあ」
「どうした、凍護。そんなに沈んで」
「久兄。……それがさぁ……今度の休み、桃花が用事で逢えないんだよ」
「……」
 その発言に、緋久は呆れて言葉も出ない。
 本当にバカップルだと思いつつも、緋久は言う。
「一日くらい、いいだろ」
「分かってるよ。でもなぁ……どーせ久兄も彼女とデートだろ?やる事ないし、休みに一人じゃつまんないじゃん」
 不貞腐れたようにそう言う凍護に、緋久は苦笑しながら言う。
「いや、今度の休みなら丁度璃琉羽も朱夏達と出掛けるって言ってたからな。久し振りにウチでゲームでもするか?」
「マジで!?行く行く!」
 急に嬉しそうな表情をする凍護に、緋久は更に苦笑した。


 そうして休日。
「久兄ん家に来るの、なんか久し振りだな」
「そうだな。お互いに彼女ができてからは、そっち優先だったからな」
 昔はよく互いの家を行き来して対戦ゲームで遊んだり、外でバスケの練習をしたものだ。
「じゃー早速対戦しようぜ。今日こそは勝つ!」
「望む所だ」

 アクション、パズル、格闘系、シュミレーション、レーシング。
 対戦ゲームは色々あれど、どちらかというとそういうのは緋久の方が得意で。
 凍護はいつも僅差で負けては悔しい思いをしている。
 そうして今日も、やっぱり緋久の方が勝っていて。

「久兄、もう一回勝負だ!」
「はいはい」

 こういう勝負は熱くなった方が負けなのだが、負け続ければ余計にムキになってしまうのが常で。
「あー!クソッ、また負けたー!」
「もう少し冷静になった方がいいんじゃないか?」
 緋久がそう声を掛けると、凍護はムッとした表情をする。
 と、その時凍護にある考えが閃いた。
「……よし。もう一回だ、久兄。今度こそ勝つ」
「どうだか」

 そうして再び勝負を繰り広げ。
 もう少しで緋久に軍配が上がる、という所で凍護が口を開いた。
「久兄」
「何だ」

「彼女とはドコまでいった?」

「っ!?」
「スキありっ!」
 その言葉に緋久が一瞬動きを止めた所で、凍護はチャンスとばかりに一気に畳み掛ける。
「っうし!俺の勝ち〜」
「なっ!汚いぞ凍護!」
「何で?ゲーム中に会話するのは別に普通じゃん」
「だからってあんな質問……!」
「どこまで遠出したか聞いただけじゃん。それとも、何か別の想像でもした〜?」
「っ〜〜!」
 ニヤニヤとしながらそういう凍護に、緋久は顔を赤くさせる。
「っ次は負けないからな!」
「上等」
 そうしてゲームをしながら、お互いに駆け引きのように言い合う。

「凍護、お前の彼女モテるだろ。告白とかされまくってるんじゃないのか?」
「久兄の彼女こそ」
「璃琉羽は告白されてもちゃんと断わってる。呼び出されても、俺が付いて行ってるし」
「へー。付いて行ってるんだ」
「で、お前はどうなんだよ」
「普段あれだけ人前でベタベタしてるから、よっぽどのバカじゃなきゃ告白なんてしてこないよ」
「だろうな」
「久兄の方こそ、そんな呼び出しに付いて行くとかじゃなくて、俺達みたいに普段から周りに見せ付けてやれば?」
「そんな簡単にできるかっ!……あ」
「よっしゃ!また俺の勝ちぃ!」
「クソッ……次だ次」

 そんな感じでやっていると、今度はいつもと違って凍護の方が勝つようになって。
 それというのも、凍護の恋人自慢だとか惚気話に緋久が動揺してしまって。
 その隙を逃さず凍護が勝つのだ。

「……お前、なんで全く動揺しないんだよ」
「そりゃあ、普段あれだけ人目を気にせずにベタベタしてる訳だし?」
「……そうだったな」
 凍護の言葉に、緋久は何となくゲーム以外でも負けた気がした。


 勝負には駆け引きがつきもの。
 相手の動揺を誘うのが、一番肝心。


=Fin=


宗方 緋久(むなかた あけひさ)……月羽矢学園高等部二年。「メル友」に登場。

木暮 凍護(こぐれ とうご)……月羽矢学園高等部一年。「気付いて。」に登場。