それを緋久の家で璃琉羽が見つけたのは、全くの偶然だった。
「あれ、この写真に写ってる子って……朱夏ちゃん?」
「ん……あぁ、そうだけど」
「ねぇ、緋久君」
「何?」
「この写真、貸して♪」
≪お宝写真≫
次の日。
「え!?これ朱夏なの?可愛いー」
「でしょー?なのに……勿体ないよねー」
璃琉羽が早速写真を学校に持ってきて智と一緒に見ていると、教室に入ってきた朱夏が覗き込んできた。
「おはよー。何見てるの?」
「あ、朱夏ちゃんおはよ」
「おはよー。朱夏って、昔、髪長かったんだね」
そう言いながら璃琉羽と智は、写真をチラつかせる。
すると朱夏は急に顔色を変えて、その写真を二人からひったくった。
「なっ……!?ちょっと、この写真どうしたのっ!?」
「緋久君に借りた」
「むーなーかーたー……」
そう言って朱夏は脱力する。
……もう、あの男は。
璃琉羽に甘いんだからっ!
そんな風に思っていると、誰かに写真を取られた。
「何騒いでんだ?」
見るとそこには写真を見ようとしている愁がいて。
「……ぎゃーーーっ!返してよっ!」
朱夏は咄嗟に写真を奪い返そうとする。
「お前……叫び声出すにしてももうちょっと、せめて“きゃー”とか言えないのか。“ぎゃーっ”って……」
「いいから返して!」
呆れながらも、ちゃっかりと写真を朱夏の手から遠ざける愁に、智が言う。
「その写真、朱夏の昔の写真だよ?中等部の頃」
「……何?」
その事に愁はいち早く反応し、朱夏を抑えながら写真を見る。
「見ないで!」
だが朱夏の訴え虚しく、写真を見た愁が動きを止める。
「……朱夏。お前、昔は髪長かったのか」
「ど、どーせ似合わないって言うんでしょ!?」
「何で切ったんだ!?」
朱夏の問いには答えずに、愁はいきなり問い詰めるように言う。
「は……?」
「だから、何で切ったんだ。勿体ない……」
「え、何……?」
愁の言葉の意味が理解できずに、朱夏は困惑する。
すると愁は、今度は一人で納得し始めた。
「……あぁ、でも今の方がいいか。こっちの方が、余計な奴等に目を付けられなくて済むし」
「……何が言いたいの……?」
「よし、朱夏。お前はこのまま髪伸ばすな。いいな?」
「や、やっぱり似合わないとか思ったんでしょ!」
「いいや?個人的には伸ばして欲しい」
「……どっちなのよ」
いまいち理解していない朱夏に、だが愁は答える事無く、璃琉羽と智に向かって言う。
「という訳で、この写真は俺が貰う」
「あ、ちょっと待ってよ。その写真、緋久君からの借り物だからダメ」
「緋久?……隣のクラスの宗方か?」
「うん。ほら、一緒に写ってるでしょ?」
言われて愁は写真を見て、朱夏に向き直る。
「……何で宗方と一緒に写ってるんだ?」
それはもう物凄く不機嫌さを表した表情と声で。
だが朱夏はそれに物怖じもせずに、あっさりと言う。
「え、だってその写真撮ったの、ウチの兄貴だもん」
「……朱夏の、お兄さん?」
「うん。ウチの兄貴、昔から近所の子を纏めて面倒見てて、皆のお兄さん的存在だったから。宗方はその内の一人」
「……幼馴染って事?」
その問いに、朱夏は首を捻る。
「うーん、どうだろ?確かにその中に混じってよく一緒に遊んでたけど……兄貴がいない時は全然だったし」
「皆、お兄さんで繋がってた、って事?」
「そんな感じ、かな。託児所みたいな?」
託児所。その言葉が一番スッキリくる気がする。
遅くまで家で兄貴と遊んでいて、パート仕事を終えた母親が迎えに来る、という光景は結構あったし。
「とにかく、これは没収。後で俺から宗方に話するから」
そう言って愁は、写真を制服のポケットにしまう。
「……何でアンタが没収するのよ!?」
「他の奴が見るかもしれないだろ?」
「それなら私が持つ!」
「ダメ。それにコレ、後で貰えるように宗方と話さなくちゃならないし」
「何で」
「欲しいから。それに、そもそも他の男が朱夏の個人的な写真持ってるのは許せないし」
「っ!」
ストレートなその言葉に、朱夏は何も言えなくなる。
「朱夏」
「……何」
「今度、お前の持ってる家族写真とか見せろよ?」
「み、見せない!」
朱夏と愁のそんなやり取りを見ながら、璃琉羽と智はやれやれと肩を竦める。
「完全に白山君優勢だね」
「うん。それに何だかんだ言って、ラブラブだよね」
呆れながらも見ている二人の前で、朱夏と愁の言い合いは続く。
「そんなに嫌がる事ないだろ」
「だって、絶対に髪長い頃の私変だもん」
「それは俺が決める。大体、何で今まで隠してたんだよ。すっげー損した気分」
それは、始業チャイムが鳴るまで続けられた。
後日。
緋久と話をした愁は、朱夏が写っている写真を他にも何枚か手に入れた。
「……朱夏には内緒だな」
=Fin=
中等部以前の写真も手に入れた模様(笑)