≪VS≫
朱夏は大抵、定期テストではクラストップの成績だ。
だけど。
それが学年全体となると、どうしても勝てない相手がいる。
それは他でもない、隣のクラスの久我道行。
彼は毎回学年トップの座をキープし、それが全教科満点という事もざらではない程の秀才だ。
「むぅ……一度でいいから勝ちたいわ……」
廊下に貼り出された順位表を睨みながら朱夏がそう呟いていると、偶然隣に道行が立った。
「……まぁこんなものか」
ボソッと呟かれた言葉に、朱夏は思わず顔を道行の方に向ける。
こんなもの……ですって?
こっちは追い抜こうと必死に頑張ってるっていうのに!
すると朱夏の視線に気付いたのか、道行と目が合った。
「……何か?」
「……別に」
問われて朱夏は視線を逸らす。
だが道行はそのまま終わりにはしなかった。
「何か言いたそうだったけれど?凄く不満そうな表情してた」
「!」
つまり先程考えていた事が顔に出ていたという事だろう。
朱夏は少しバツが悪くなる。
「……気にしないで。どうあっても勝てないから悔しいだけよ」
「そう。……確か、隣のクラスの絹川さんだったね。成程?確かにほぼ毎回、学年二位の位置にいるね」
「……」
学年二位、とはいっても、一位の道行とは点数の開きがある。
接戦の末負けた、というワケではないのだ。
それに朱夏は順位を落とす事だってある。
なのに道行はずっとトップをキープしていて。
それが余計に悔しい。
「そんなに睨まないでくれないかな?僕としては、君がもう少し頑張ってくれると嬉しいんだけど」
「どういう意味」
「張り合いがないと、勝負事はつまらないだろう?君がもう少し……そうだな、せめてケアレスミスを無くせば、十分楽しめそうだ」
「……何で分かるのよ」
そう、朱夏の主な敗因はちょっとしたケアレスミスの積み重ねだ。
それを無くせば、恐らくはもっと道行に近付けるだろう。
「実力は十分。それでも僕に及ばない、という事は、ケアレスミスが多いんじゃないかなと思ってね」
「ぐ……」
当たっているだけに、朱夏は何も言い返せない。
「……君みたいな人物が僕のライバルになってくれたら楽しいだろうな。期待してるよ。それじゃあ」
そう言って悠然とした笑みを浮かべると、道行はその場から去っていった。
「……ライバル、ね」
朱夏はそう呟くと、道行の背に向かって挑戦的な笑みを浮かべた。
なかなかどうして、ただの優等生ってワケでもなさそうだし。
なってやろうじゃないの、そのライバルってヤツに。
=Fin=