夜になって、怜人は帰るなり音々子を抱き締めて離さない。
「ね、ねぇ怜人ぉ……これじゃ何もできない……」
玄関で抱き締めてキスをして。
今はリビングのソファの上だ。
「ご飯冷めちゃうよぉ……」
身動きの取れない音々子は散々抵抗した挙句、今は怜人の腕の中にすっぽりと収まりつつも、弱々しく口で抗議していた。
怜人って、本当は甘えたがり……?
音々子は思わずそんな事を思ってしまう。
だが怜人はそんな事お構いなしに、音々子の首筋に顔を埋めたり、髪に唇を寄せたりしている。
「……あー……癒される……」
「……怜人?」
「んー?」
甘えるような声音で返事をした怜人に、音々子は自信なさそうに聞く。
「……私なんかで、癒されるの……?」
は。
「はぁ!?何言ってんだ。俺は音々子だから癒されるんだよ」
そう言いながら音々子の頬を摘んでむにむにと引っ張る。
「……お前がずっと俺を避けてたの、スゲー辛かったんだぞ?」
「……ごめん」
しゅんとする音々子を抱き締め、怜人は音々子の額に自分の額をコツンと合わせる。
「だからさ、嬉しいんだよ。お前が笑顔でいる事が」
「……うん」
軽くキスをし、音々子は怜人に寄り添う。
幸せだった。
腕の中には、すっぽりと収まるように頬を寄せてくる愛しい彼女。
「……捕まえた」
俺の部屋には猫が一匹。
もう俺にしか懐かない。
誰にも触らせたりしない。
絶対、手離さない俺の――大切で可愛い、俺だけの音々子。
=Fin=