だが白山は低い声で怒ったように言う。
「何俺の気持ち勝手に否定してんだよ」
「だって……嫌、でしょ?私みたいな、背の高くて、勝気で、可愛くもない女の子……」

 男が好きなのは、背が低くて、従順で、可愛らしい女の子。
 私とは、正反対の女の子。

「……そーだな」
「……っ」

 ズキッと、胸が痛んだ。
 自分で言った事なのに。

「でもな……理屈じゃねぇんだよ」

 そうして白山に強く抱き締められる。
 その事が物凄く嬉しかった。

「朱夏。お前やっぱ当分牛乳禁止」
「……何でよぉ」
「今みたいに泣かれた時、肩だとお前の泣き顔、他の奴に見られるだろ。お前の泣いてるトコ、誰にも見せたくない」
「……バカ」
 いつの間にか泣いていた朱夏は、白山の肩口に顔を埋める。
「……夏休み中に、もっと背、高くなってよ」
「ん。頑張る」
 暫く二人はそのまま抱き合っていた。

「なぁ、朱夏」
 抱き合ったままで白山が口を開く。
「何」
「俺、まだ返事聞いてない」
「……聞きたい?」
「勿論」
 返事をわざわざ聞かれて、朱夏は少し意地悪をする事にした。
「それじゃあね……私の背がもっと高くなってもいいなら、いいよ?」

 だってやっぱり、どうせならありのままの私を好きになって欲しいから。
 私のコンプレックスも、全て、丸ごと。

 ――信じてる。

 きっと白山……ううん。愁なら、いいよって言ってくれるって。

「……ったく。しゃーねぇなぁ……ま、でも……そんな朱夏が好きだ」
 愁は苦笑しながら、それでもちゃんと欲しい言葉をくれた。
「……私も愁の事、好きだよ?」
 だから、少しだけ素直になってみた。
 そしたら愁は驚いた顔をして、すぐに顔を真っ赤にさせて。
「……おう」
 それだけを言った。


 166p。
 モデルを目指すには少し低いし、男の子からは敬遠される微妙な身長。
 それが私、絹川朱夏のコンプレックス。
 だから絶対女の子は背が低い方が得だって、ずっと思ってた。
 それに勝気な性格が、私を女の子らしさから遠ざけていた。

 でも。
 でもね。
 人を好きになるのなんて理屈じゃない。
 好きになったら、そんなの全然関係ないんだもの。
 という事で。


 絹川朱夏、17歳目前。念願叶ってただ今恋愛真っ最中です!



=Fin=