一学期終了の日。
結局あれから白山とは何もないままで。
朱夏は成績表が配られる事よりも、夏休みに入る事の方が気が重かった。
夏休みに入ったら会えなくなる。
今よりももっと距離が開いちゃう。
――本当は分かってる。
こんなの、自分らしくない。
いつもだったら自分から行動を起こしているのに、臆病になってる。
何も出来ない。
だって私はもう、彼に完全に嫌われてしまっているんだから。
そう思っていた。
「絹川、話がある。来い」
そう彼に――白山に話し掛けられるまでは。
連れて来られたのは、普段余り人気のない屋上。
「こんな所に呼び出して、何の用?」
本当は嬉しい筈なのに、朱夏の口からは可愛くない言葉しか出て来ない。
「……かっわいくねー……」
白山のその呟きに、朱夏はカチンと来た。
「何よ。分かってるんなら何で呼び出すのよ、バカ!」
「ば、バカって何だよ!?本っ当に可愛くねー奴!」
「ええそうよ、そうでしょうとも!分かってるわよ、アンタにそんな事言われなくても!」
売り言葉に買い言葉とはこの事を言うのだろうか?
朱夏は自分が言っている事を止められなかった。
「アンタなんかに可愛いと思われなくても結構!それともわざわざそんな事言う為に呼び出した訳!?」
ヤダ。
何でこんな事言ってるんだろう?
呼び出されて、嬉しかったのに。
ダメだ、私。
何で素直になれないんだろう?
「っ!……お前ちょっと黙れ」
「な……んんっ!?」
突然の事に一瞬、何が起こったのか朱夏は理解が出来なかった。
何コレ。
何がどうなってるの?
今、私。
……キスされてる?
そう思った時にはもう白山の顔は離れていた。
「好きだ、朱夏」
いつもとは違う真剣な、だがどこか甘く、優しい瞳に見つめられ、朱夏は胸が苦しくなる。
「嘘…だよ。そんな事……あるハズ、ない……」
上手く言葉が出てこない。
声が掠れる。
それでも何とかそう言って。
……認めたくなかった。