「お前は俺の女だ」

 低い声でそう言われ、キスをされる。
「……っ!?」
 いつもとは全然違う、乱暴なキス。

 嫌だ。
 こんなの。
 久我じゃない……っ!

 時音は目に涙を浮かべながら、激しく抵抗する。
「……っ!そんなに俺が嫌いかよ!?」
 そう叫んだ久我の表情は、苦しそうに歪んでいて。
 そんな顔を見ていたくなくて、時音は首を横に振る。
「じゃあ何でだよ!?」

 ――悲痛な叫びに聞こえた。

「だ……って……好きって、言われてない……っ」
「そんなの……!言わなくても分るだろ?」
「分んないよ!自分が何言ったか覚えてないの?私の事、女避けになるって言ったんだよ?本性バレたからって……だから……」
「時音……」
「もう……これ以上私に構わないでよ……」

 苦しくて。

 哀しくて。

 時音は泣いていた。
 その場に沈黙が流れる。
「……俺は時音の事、好きなんかじゃない」
「っ!」

 ハッキリとそう言われて、ショックだった。
 何も考えられない。
 頭の中が真っ白になる。

 だがその直後。

「愛してる。好きなんて、中途半端な気持ちじゃない」

 抱き締められて、耳元でそう囁かれた。
「……っ……く…がぁ……!」
 時音は久我の腕の中で、声を上げて泣いた。

 そうして時音がひとしきり泣いた後、久我は優しい声で聞く。
「時音。ちゃんと気持ち聞かせて」

「……好き。私は久我が好き」

 自然とその言葉が出てきた。
 認めたくなかった気持ち。
 でも、今なら。

「当然」
 そんな久我の声が聞こえてきて、時音はクスクスと笑う。
「何?」
「え?いや、何か久我ってさ、“我が道を行く”って感じで、名前の通りだなぁって思って」
「そうか?」
「それに強引。……“強引ぐまいうぇい”って感じ」
「“Going my way”じゃなくて?」
「うん。ご〜いんぐまいうぇい」
 そう断言すると、久我は、それはもう本当に綺麗な微笑みを浮かべて。

 あ、やばい。
 何かしようとしてる時の顔だ。

 そう思っていると、久我の顔が近付いてきた。

 キスされるっ。

 そう思って時音は慌ててギュッと目を瞑る。
 しかしキスの代わりに耳元で囁かれた。

「一生離してやんねぇから。覚悟しとけよ?」


 ……どうやら私は、この我が道を行く俺様男に、完全に捕まってしまったみたいです。


=Fin=