「時音。何か悩みでもある?」
「え゛!?ナイナイ、何にもないっ!」

 ある日の帰り道、本人にそう聞かれ、時音は思いっきり否定する。

 いやいや。本人に言えるワケないでしょ。

「……俺の事でも考えてた?」
「な……っ!」

 アンタはエスパーか!?

「図星?顔真っ赤だぜ。うーん、俺って愛されてる」
 ニヤニヤしながらそう言う久我を、時音は睨み付ける。
「何、照れ隠し?時音かっわいー」
「て、照れてないっ!」
「またまた、素直になれって。ほれ“愛してる”って言ってみ?」
「うぅ〜っ」
 完全に久我のペースに振り回され、時音は悔しくて唸る。
 と、そこでハタと気が付いた。

 んん?
 待てよ?

 そうして思い返す事数分。

 そういえばそうだよ。
 好き、なんて。
 言われた事ないじゃんか……!

 そーだよ。気に入ったとか言われて強引にキスされて。
 次の日からしつこく付き纏われて、一応周りからはカップルに見られてるけど、私はそもそも認めてないし。
 キスも毎日朝と帰りにされるけど。
 コイツは私を好きじゃなくて。ただ玩具みたいに反応を見て楽しんでいるだけ。

「……アンタなんか好きじゃない。それにアンタだって私の事好きじゃないでしょ?バッカじゃないの」

 本当、馬鹿馬鹿しい。
 つい流されてただけじゃない。

 そう思って鼻でせせら笑うように言うと、久我はムッとしたのか、急に真剣な顔付きになる。
「……時音は俺の彼女だろ」

 何で。
 そんな顔してそんな事言うの?

「違う。彼女じゃ、ない」
「お前本気で言ってんの?」

 怖い。
 怒ってる?
 何で……?

 だが時音は、その迫力に怯まずに言う。
「あ……当たり前でしょ!?」
 するとその直後。
 乱暴に肩を押され、時音はよろめく。
「ちょっと!いきなり何す……」

「うるせぇ」

 気付けば後ろには塀があって。
 久我は時音の顔の横と腰の横に手を付いて、目を細めている。

 逃げられない。
 いつもと全然雰囲気が違う。

 怖い。