≪努力だけは人一倍しています≫
私の彼はヘタレです。
なさけない、と表現した方が正しいでしょうか?
基本的に彼は運動音痴です。
きっと運動神経が人より機能していないんでしょうね。
初めての方も、そうでない方もこんにちは。火乃子です。
もうそろそろ茂馬君のお話にも慣れていただいた頃でしょうか?
間違っても彼に惚れないで下さいね?
何といっても、茂馬君は私の大切な彼氏なんですから。
学校には様々な行事があると思いますが。
私の学校には球技大会というものがあります。
名の通り、様々な球技で競うんですね。
学校行事という事で、勿論全員強制参加です。
競技種目は、男子はサッカー、野球、バスケ。
女子はバレー、ソフトボール、バドミントン(ダブルス)。
一人ニ種目までなら参加OK。
……というか、男子は何人かがニ種目参加しないと、全競技に出られませんからね。
茂馬君はバスケに決まりました。
私ですか?私はバドミントンです。
ただ、茂馬君はハッキリ言って運動音痴なんです。
運動神経ゼロとまでは言いませんが、苦手な事は確かです。
通知表の保健体育は、5段階中いつも3ですから。
……いつも保健のペーパーテストで点数を稼いでいるんです。
「かのちゃん、家にバスケットボールってある?」
球技大会の出場種目を決めた日の帰り道、茂馬君が突然そう言い出しました。
「……確か、お兄が持ってたと思うけど……どうするの?」
「あのね?ちょっと練習しようと思って……」
「公園で?」
ご近所の公園には最近、バスケのゴールリングが一つ取り付けられた所があるんです。
たまに小学生達が遊んでいるのを見かけます。
「うん。……僕以外の人、皆他の種目と掛け持ちしてて。だからせめて、皆の足引っ張らないようにちょっとでも上手くならないと」
「そっか。じゃあ私も付き合ったげる。一人でやるより、相手がいた方がパス練習もできるでしょ?」
「かのちゃん、いいの?ありがとう!」
茂馬君はそう言ってパァッと笑顔になって。
私も思わず笑顔になります。
だって、茂馬君の満面の笑顔、大好きなんですから。
練習は主に、茂馬君が放課後の図書当番のない日にやります。
だってお休みの日はデートするんですから。
それに、私も茂馬君も部活はやっていないんです。
茂馬君が図書当番の日は、私も図書館で本を読んで、彼が終わるのを待っているんです。
……話が逸れましたね。
練習を始めて、数日。
茂馬君は一向に上達しません。
勿論、努力だけは人一倍しています。
しているんですけど。
いかんせん、彼自身の運動神経に問題がありますから。
だって、ドリブルする時は手元見てないとボールがどこかに行ってしまうし、何度やってもシュートが決まりません。
「……かのちゃん〜」
「うーん、そうだなぁ……茂馬君、ドリブルする時は、もっとこう……ボールを上から掴むように指を曲げて……そう、そんな感じ」
結局、私が素人指導をしています。
「パスは相手の胸めがけてって言うでしょ?もっと手首捻って押し出す感じ」
「こう?」
「うん、さっきよりは真っ直ぐ来たよ」
素人指導でも、初心者同士でやってるし、何も本格的にやるわけじゃないからいいんです。
ちょっとでも上達すれば。
だって先程までのパスは、かなり暴投して色んな方向に飛んで行ってましたからね。
「シュートはそんなに力まなくても、ふわっとした感じで……遠くに投げる感じ?」
「……えいっ。……あ、ちょっと惜しかったかも」
「でも、さっきよりはいいんじゃない?」
シュートも、30本に一回くらいは入るようになりました。
「かのちゃん、ありがとう。かのちゃんのアドバイスのお蔭で、ちょっとは上達したかも」
「ううん。茂馬君が努力してるからだよ」
そう。茂馬君は、努力を惜しまない人なんです。
自分が運動音痴だと分かっていても、無駄だ、といって諦める事なく努力のできる人。
尊敬に値します。
無駄だと思える事を諦める事なく努力できる、というのは、なかなかできるものじゃありませんからね。
そうしてニ週間練習して明日はいよいよ本番。
さて、本番はどうなるんでしょうか?
=Fin=