≪情けない顔です≫


 私の彼はヘタレです。
 なさけない、と表現した方が正しいでしょうか?
 彼は表情が豊かです。
 別にそれが悪いとは言いませんが。
 それにしたって、落ち込んだ表情まで人前で見せる事はないと思うのですが。

 初めての方も、そうでない方もこんにちは。火乃子です。
 本日は前回に続いて球技大会のお話です。
 出来れば前回のお話を読んでから、このお話を読んで下さいね?


 球技大会の本番です。
 午前中は、体育館で女子のバドミントンとバレー。外では男子の野球。
 午後は、体育館で男子のバスケ。外では女子のソフトボールと男子のサッカーです。

 午前中、茂馬君は私の応援に来てくれました。
 対戦相手が茂馬君のクラスの女の子達になった時は、どっちを応援するか迷っていたようですが。
 というか、同じクラスの人に、“自分のクラスを応援しろ”と怒られていました。
 ……私の結果ですか?聞かないで下さいね。

 午後は勿論、私は茂馬君の応援に行きました。
 自分のクラスですか?興味ありませんよ?
 だって、でなきゃそもそも茂馬君の練習に付き合った意味ありませんからね。

 茂馬君は、それなりに結構頑張っていました。
 教えた通りにドリブルも出来ていたし、パスもちゃんと出せていました。
 シュートは残念ながらなかなか決まりませんでしたが、同じチームの人がちゃんとフォローしていました。
 そうして一回戦は見事に大差で勝ち抜きました!

「茂馬君、勝ったね」
「かのちゃん。……見ててくれた?」
「うん。茂馬君、ちゃんと練習の成果出てて、格好良かったよ」
「本当?えへへ……」

 照れた様子の茂馬君は可愛いです。
 たまに、本当に高校生なのかと問いたくなりますが。

「……でもね、相手チームの人達、全然やる気なかったみたいだから」
「そう?」

 茂馬君のこの言葉は当たっていました。
 試合はトーナメント形式の勝ち上がり戦で、4、5回勝てば優勝出来るんですが。
 二回戦目ではギリギリ勝ちました。

 茂馬君はちょっとだけ……いや、傍から見ればかなり足を引っ張っていました。
 事実試合が終わると、茂馬君は落ち込んだ表情をしていましたから。
 眉尻は下がり、口はへの字になって、本当に情けない顔です。

「かのちゃん……やっぱり僕、皆の足引っ張ってる……」
「で、でも、途中でパスが綺麗に通って、点入れれたじゃない」
「……うん」

 落ち込みモードの茂馬君は、本当に情けなさ倍増です。
 しかも、他の人に迷惑を掛けている、という事で余計に。
 そんな状態では余計に皆の足を引っ張ってしまって。
 結局三回戦目で敗退してしまいました。

「……茂馬君」
「……何?かのちゃん」

 完全に落ち込んでいます。
 だって、返事はしてくれたけど、しゃがみ込んで膝を抱えて顔を埋めて、こちらを見てくれません。

「茂馬君は頑張ったよ?でも、相手チームがバスケ部の人じゃ、仕方ないよ」
「でも……」

 三回戦目の相手の中に、バスケ部の人が一人いました。
 相手チームは殆どその一人だけが活躍していて。
 そのチームに僅差で負けたから、余計に悔しいのでしょう。

「……あのね、茂馬君。茂馬君が頑張ってたのは、きっと皆気付いてるよ」
「……」
「だって茂馬君、普段よりも活躍したでしょ?同じチームの人だって、負けたのは茂馬君のせいじゃないって言ってたじゃない」
「……うん」

 むしろ、茂馬君が意外に活躍した事に驚いていましたから。
 茂馬君の運動音痴は、誰でも知っている事ですからね。

「そんな事言ったら、私だって三回戦敗退だよ?しかも、球技大会って全員強制参加だから、女子は人数の関係でバドミントンは他の競技より参加チーム多いし」

 女子はバレーとソフトボールとバドミントン(ダブルス)で、全部で17人。
 でも、クラスによっては女子の人数がそれより多くて。
 結果、2チーム出てるクラスが殆どで。

「茂馬君はベスト8まで行ったでしょ?でも私はベスト16だよ?」
「かのちゃん……」

 茂馬君は、ようやく顔を上げてくれました。
 やっぱり情けない顔のままです。
 しかもちょっと泣きそうになっています。

「茂馬君。今度は別の事で頑張ろ?」
「……うん」

 気持ちが浮上してきたのか、茂馬君は少しだけ笑顔になってくれました。
 やっぱり茂馬君は笑顔が一番ですね。

 さて、今度はどんな事が待っているんでしょうか?


=Fin=