「あの、私、花咲桃花(はなさきとうか)といいます!ずっと好きでした。付き合って下さい!」
「……いいよ」
「……っ!」
学校の行事の時に私から告白して、彼と付き合いを始めて一ヶ月。
幸せなんだけど、少し不安。
だって。
キスどころか抱き締めてもらった事も、まして、手を繋いだ事さえない。
何より、まだ一度も、好きって言葉を言ってもらっていないんだから。
≪気付いて。≫
私の彼、木暮凍護(こぐれとうご)君は、成績優秀、スポーツ万能。ルックスも良しの凄くカッコいい人。
ただ一つ。いつも何かを睨みつけているような眼を除けば……の話。
しかも彼にはよくない噂がある。
それは、中学の頃に喧嘩相手を全員病院送りにした、というもの。
これは今私が通っている月羽矢学園では有名な話。
何といっても彼はここに初等部の頃から通う内部生。当然中学もここの中等部だから、噂はずっと付き纏う。
その為か近寄り難い雰囲気の彼に、周りから『やめたほうがいいよ?』とありがたくない忠告まで受けて。
……確かに一緒に帰ってもあんまり会話は続かないけど。
不良とか言われてるけど。
本当は凄く優しくて、礼儀正しい人って事、私は知ってる。
何で皆気付かないんだろう。
彼を昔から知ってる人は、ちゃんと分かってるみたいだけど。
親友の咲(さく)ちゃんに言わせると、
『小さくて、ポヤッとしてて、大人しい感じ』
というのが私。
それと、
『たまにとんでもない事を言い出す子』
らしい。
……そんな自覚は無いけど。
とにかく、彼とは対照的な組み合わせみたいで。
それも不安の要因の一つ。
凍護君は……私の不安に気付いてなさそう。クスン。
「花咲」
低過ぎず、高過ぎず、丁度耳に心地いい声。
他の人は冷たいと言う印象の声も、桃花にとってはそう聞こえる。
桃花はいつも自分の所属する吹奏楽部が終わると、体育館で凍護の所属するバスケ部が終わるのを待つ、というのが最近の日課だ。
そうして帰り支度を済ませた凍護が桃花に声を掛けて。
「帰るか」
「うんっ」
二人は並んで帰る。
その二人を見て驚いているのは周りの生徒達。
「……ねぇねぇ、木暮君ってちょー怖いよね。とーかもよく付き合ってるよ」
「脅されたんじゃないの?」
「え、でもあれって彼女から告白したんでしょ?」
「そうなの?うっわ、物好きー……」
そんな周囲の声を桃花は知っていた。
何で皆気付かないのかな。
凍護君はそんなに怖い人でも悪い人でもないのに。
凍護君は周りの声に気付いていないのかな。
結構酷い事言われてたりもするんだけど。