「花咲、どうかした?」
「ううん。何でもないよ?……あ、そーだ。凍護君、今度の日曜日……その、一緒に映画見に行かない?」
 帰り道はいつも、桃花が一方的に喋っている状態。凍護はいつもそれに相槌を打つ程度だ。
 そんな凍護から今まで誘いはなく、未だにデートをした事がない。
 だから桃花は、思い切って自分から誘ってみる事にした。

「……」
 やっぱりダメかも。
 だが。
「……いいよ。何時?」
 思ってもみなかった答えに、桃花は喜んで言う。
「じゅ、十時!駅前の時計の下で待ち合わせ。ね、約束!」

 凄く嬉しい。初めてのデートだ。
 何着て行こうかな。映画の後はどうしようかな。
 桃花は日曜が楽しみになった。


 日曜日。
 楽しみで桃花はあまり寝れていなかったが、全然平気だった。
 桃花が待ち合わせに遅れないように行くと、凍護はもう既に来ていた。

 私服姿もカッコいい♪

「おはよ♪」
「……おはよう。行くか」
「う、うん……」
 ちょっと気合入れてお洒落して来たのに。
 コメントはナシですか?


 ちなみに今日桃花が着ているのは、ピンク系の小花柄のプリントキャミの上に、カットソー素材のピンクのリボンカーデ。キャミの裾はふんわりと広がっていて、そこが可愛い。
 下は白のワッシャースカートに、ストーンがあしらわれているミュールだ。

 ちょっとは何か言ってくれると思ったのに。
 桃花は少し哀しかった。


 映画は今一番話題のファンタジー。
 異形の少女が一人の賞金稼ぎの男と出会い、少しずつ成長し、変わっていくというお話。


 見終わって二人は近くのマックでお昼にする。
「すっごく良かったぁ!雨のシーンもいいけど、やっぱりラストが一番!凍護君は?どうだった?」
「……別に」

 その言葉に、桃花は何だか胸が苦しくなる。
 哀しいような、腹立たしいような、寂しいような。
 もやもやとした感じ。

 何か。

 ……何か。

「っ……もういい。凍護君なんてもう知らない!」
 桃花は瞳に溢れんばかりの涙を溜めて。
 思わず外に飛び出した。
「花咲!」

 後ろで、自分の名を呼ぶ凍護の声が聞こえた。
 だが、桃花は立ち止まる事をしなかった。