それからというもの。
「桃花」
 バスケ部が終わるのを待っている桃花の名前を呼びながら、凍護が後ろから彼女を抱き締める。
「凍護君」
「帰るか」
「うんっ」

 そんな二人を見ていた周りの人間は、暫くそのまま固まっていた。
「何……アレ……」
「あれ、本当にあの木暮君……?」

 手なんか繋いで。
 腕組んだりしてるし。
 さっき後ろから抱き締めてたし。
 そういえばいつの間にか名前で呼んでるし。

 ……ありえなーい……。


「ね、凍護君。今度勉強教えて?」
「いいよ。いつにしようか」
「うーんと……」
 デートの後から二人の距離は一気に縮まったような気がする。
「ああ、そうだ。図書館じゃ静かにしなきゃいけないから俺か桃花の家でね」
「じゃあ凍護君の部屋で!」
「じゃあそうしようか」


 一度本音を言ったからか、凍護から話をする事も多くなった。
「……桃花は、さ。あの噂の事、どう思ってる?」
「喧嘩で相手を全員病院送りにしたって噂?だってあれ、本当の事じゃないでしょ?」
「!」
「絡まれてる女の子を助けたんだよね」
「何で……知って……」
 驚きに目を見開く凍護に、桃花は少しだけ残念そうな顔をする。
「……さーぁ?何ででしょう?」
 そうして、悪戯っぽく微笑む。
「誰かに聞いたとか?でも真相知ってるのは殆どいないし……」
 難しそうな顔で考え込む凍護を、桃花は愛しそうに見つめる。


 ねぇ。
 気付いて?
 初めて逢ったのは……。



=Fin=