しかし。
「……行くぞ」
 そう言うと凍護は、くるりと踵を返して歩き出した。
「な……っどうして?何で何も言わないの!?怒るとか、心配するとか……してくれてもいいじゃない!」

 何も言わない凍護に、何だか無性に腹が立って。

 無性に泣けてきた。

「い、嫌なら嫌ってハッキリ言ってよ……つまんないんでしょ?私といても」

 まるで、興味が無いと言われているようで。

「いつも私が一方的に話してるだけだし、さっきも映画の感想……」

 自分だけが舞い上がっているみたいで。

「……私達、付き合い始めてもう一ヶ月だよ?なのに、やっと今日初デートで。可愛いよって、言って貰えるように頑張ってオシャレして来たのに……何も言ってくれないし……」

 言いながら桃花はどんどん顔が俯いてしまう。

「手……一度も繋いだ事ないんだよ?……私を呼ぶ時、いつも名前で呼んでくれないし……」

 哀しくて。

 寂しくて。

「私……まだ凍護君から、好きって……言って貰った事、ないんだよ……?」

 不安が心に広がる。

 桃花はついに泣き出してしまった。

「花咲……」
「!?」

 次の瞬間。桃花は何が起きたのか一瞬分からなかった。
 気が付くと、凍護に抱き締められていて。
「もう泣くな。……その、告白された時は、正直嬉しかった。一緒にいて、話を聞くだけで幸せだった。……花咲も、同じ気持ちでいるって思ってたんだ」
「……」
「映画は……実はずっと花咲の顔見てて、内容見てなかったんだ」
「……え?」
 凍護の口から出た言葉に桃花が唖然としていると、彼は尚も続ける。
「人付き合いって苦手なんだ。だからいつも特定の人物としか上手く話せなくて。そんなだから女の子となんて、本当にどうしたらいいか……」

 ああ、そうなんだ。
 だから余計に周りから敬遠されてるんだ。

「……今日逢った時、本当はすっげー可愛いって思った。でも言えなくて……ごめんな?不安にさせて」
「凍護君……ううん、いいの」

 良かった。
 迷惑とか思われてたらどうしようかと思った。
 しかも嬉しい本音も聞けたし。

 桃花はその事にふんわりと微笑む。

「……あの、さ。俺はちゃんと……桃花の事、好きだから」

「……!うん、私も大好きだよっ!」
 真っ赤になって、それでも言ってくれたのが物凄く嬉しくて。
 桃花は思い切り凍護に抱き付いた。
「と、桃花!?」

 勿論、凍護は慌てふためき、更に顔を真っ赤にさせるのだが。