リアスから逃げ出した二人は、再び旅を続ける。
二人にとっての日常が戻った。
変わった事があるとすれば、それはクロスの様子だ。
口調や態度が、元々はそうだったのだろう、少女らしく柔らかくなった。
そして、もう一つ。
それは、二人が久しぶりの宿でくつろいでいる時だった。
「どうしたの?そんなに見つめて」
柔らかなロッドの眼差し。
「んー?いつ見ても綺麗な髪と眼だなって思って」
ロッドは指をクロスの髪に絡ませる。
その手に、クロスは自分の手を重ねた。
「そういえば……昔一度だけ、城を抜け出した事があって……その時に逢った子も、この髪と眼を綺麗だって言ってくれたなぁ……」
懐かしむように言うクロスに、ロッドは口元を緩める。
「何?」
ロッドの様子に、クロスは少し怪訝そうな顔をする。
「ん、いや……俺も昔、一度だけリアスに行った事があるんだ。それまで一緒に旅してた親父が死んで、アテも無く一人で途方に暮れて、落ち込んでた時」
ロッドは話ながらクロスを抱き寄せる。
「ある女の子に逢ったんだ。……陽の光に透けるような髪と、深く、吸い込まれそうな程神秘的な眼をした女の子」
クロスは興味ありげに、だが少し複雑な顔で聞いている。
「……最初は、精霊とか、女神とか、そういった類に見えて、でも違った。その子とはロクに話も出来なかったし、名前も聞けなかったけど」
段々クロスが面白くなさそうな顔になる。ヤキモチだろうか。
「ずっと心の支えだった。俺にとっては光みたいな存在で」
クロスはいよいよ今にも泣きそうな顔をする。
「……また逢えるとは夢にも思っていなかったけど」
意味深な瞳を向けて、ロッドはニコニコしている。
その瞳の意味に気付いたクロスは、顔を真っ赤にして言う。
「嘘……ロッドなの……?もしかして、最初から?」
クロスの赤い瞳が、僅かに揺れている。
クロスの髪を梳きながら、ロッドは言う。
「もちろん、すぐに気付いたよ」
「……ずるい」
少しだけ悔しそうなクロスに、ロッドは照れながら言う。
「クロスは俺の初恋の相手だもん。……だから今、こうして一緒にいられるのが凄く嬉しい」
耳元で囁くように言われ、クロスは何だかくすぐったい気持ちになる。
ロッドの蜂蜜色の瞳が、柔らかな光を宿していた。
「じゃあ、ね……」
「ん?」
「もしも、なんだけどね?……私が異形じゃなかったら……どう、だった?」
そう聞いたクロスは不安そうで。
だがロッドは優しく微笑む。
「もちろん」
その答えに、クロスは幸せな気持ちで満たされる。
「ロッド……」
「……クロス」
クロスはロッドの胸に頬を寄せて。
ロッドはクロスの顎の下に手を添えて、自分の方を向かせる。
刹那、二人の視線が絡んだ。
穏やかな空気が二人を包む。
クロスの銀の髪と、ロッドの蜂蜜色の髪が、窓からの風に揺れて重なった。
二人の幸せな未来は、ここから紡がれる――。
missing-destiny。
失われたのは、異形と呼ばれた少女の、悲しき未来。
=Fin=