「そこまでにして頂けますか?」
突然掛けられた声に、二人は思わず体を離し、声の主を見る。
「……スフォード!」
立っていたのはスフォードだった。
スフォードは剣を抜き、構える。その姿には殺気さえ感じられた。
「……姫を返してもらおう」
だが、ロッドは動く事が出来ない。
勝てればいい。
でも。
負けたら?
怖かった。負ければクロスは今度こそ本当に、自分の手の届かない所に行ってしまう。そう思うと足が竦んだ。
「ロッド……?どうしたの?」
「クロス……怖いんだ。また負けたらって思うと、俺……」
弱気になるロッドに、クロスは溜息を吐いて言う。
「……情けない。やる前から諦めムードか?剣も抜かずに、負けた時の事なんて考えるな。勝たなければどの道私は連れ戻される。それは嫌なんだろう?」
叱咤するクロスはいつの間にか男の口調だったが、ロッドは気付かない。それ程動揺していた。
「でもクロス!」
でも、と言われクロスはムッとくる。
「……剣を貸せ。自分でやる。お前みたいな意気地無しに、私の未来を決められてたまるか。可能性はいつだってゼロじゃないんだ。さぁ、早く」
その言葉にロッドは苦笑する。
「……ダメだ。やっぱり俺がやる。可能性なら俺の方が高いだろ?……ごめんな?弱気になって」
「いや……任せた。……絶対勝つって、信じてる」
優しく微笑むクロスに、ロッドは勇気付けられる。
「おぅ!」
守るんだ。今度こそ、絶対に。
ロッドは剣を抜き、構える。
「……話は終わったようだな」
「待たせたな。……行くぞスフォード!」
「来い!」
ロッドは構えた剣の切っ先を斜めに下げて走り、そのまま切り上げる。
スフォードはそれを易々と躱す。
だが、ロッドは連続で切り込んで行き、剣の交わる音が高く響く。
「クロスは、ずっと苦しんできたんだ!物や道具なんかじゃねぇ!」
剣の刃で押し合い競り合い、力比べをする。
「お前に姫の何が分かると言うのだ?たった数ヶ月一緒にいただけで、分かったような口をきくな!」
今度は何度も打ち合い、火花が散る。
「じゃあ何でクロスに辛い道を歩ませる!?好きなようにやらせてやれよ!」
そうしてお互い一旦距離を取った所で、スフォードは剣を降ろした。
「……私だってそうしたいさ。ずっと姫を見守ってきたのだから……」
剣を鞘に収め、腰を落して前屈みになり、剣の柄に手を掛ける。
「だが、私にはどうする事も出来なかった。……姫の呪われた運命を変える事など、誰にも出来はしない!」
そう言ってスフォードは、一気に切り込んで来る。
次の瞬間。
ロッドの剣がスフォードの剣を弾いた。
剣はスフォードの手を離れ、地面に音を立てて落ちた。
「……私の負けだ」
スフォードは踵を返す。
「……姫にもしもの事があった時は、私がお前を殺してやる」
「もしも、なんてねぇよ。呪われた運命?ハ、異形は幸せになれない運命なんてクソくらえだ。そんなの俺が変えてやる。……絶対守り抜く。幸せにする」
「……そうか」
歩き出したスフォードを、クロスは呼び止めた。
「スフォード!……ごめんなさい。迷惑を、掛けてしまって……」
「……本当は、姫を妹のように想っておりました。……お元気で」
最後にそう言って、スフォードは行ってしまった。
「……兄貴は妹を守るものなんだよな」
「うん。……今なら分かる気がする」
スフォードは誰よりも厳しかったが、誰よりも一緒にいてくれた気がする。
「さて、行きますか!」
突然何を思ったのか、ロッドはクロスを横抱きに抱き上げた。
「なっ、何を……!」
「やっぱ花嫁奪還って言ったらコレでしょ♪」
真っ赤な顔のクロスに、ロッドは満足気に言った。