クロスは今、凄く幸せだった。
 ロザリオという名を、立場を捨て。
 自由になれて。
 ……あの頃は、城の中が全てだった。
 あの陰鬱で、暗く、重い世界。
 外の広さも、明るさも。
 何も知らなかった。
 そうして、思ってもみなかった。
 未来が明るいという事。
 自分が、自由になれるという事。
 ……自由だという事。
 あの暗く、狭い世界が、まるで嘘みたいだ。
 紅き眼と銀の髪を持つ異形として、疎まれ、蔑まれ、虐げられて来た日々。
 必要とされなかった自分。

 だが今は違う。


 自分を必要とし、大切にしてくれる人――ロッドが居てくれるのだから。



=Fin=