『前略、アントス=ディア=フィンネル様。
よう、アントス。元気か?俺達は元気にやってるぜ。
手紙、受け取ったよ。王子としての執務、頑張ってるみたいだな。
この間はB級の賞金首を捕まえた。クロスが大活躍だったんだ。お前も剣術始めてみたら?スフォードは厳しいけど、いい師だってクロスも言ってる。
今度は東の方に行くつもりだ。まずはオーズラエルって街を目指す。
街に着いたらまた手紙書くよ。じゃあな。
ロッド=ベルゼーム&クロス』
「それ、アントス宛の手紙?」
「ん、ああ。この間ギルドで受け取った手紙の返事」
あれから数ヶ月。
ロッドとアントスは、互いの近況を手紙で報せあっていた。
「東に行くだろ?報せておけば、またギルドを通じて手紙を受け取れるし」
色々な街を点々とするクロス達。
そういった場合、手紙はギルドに託すのが一番確実だ。
「……なぁ、クロス」
手紙を入れた封筒に封をしながら、ロッドは話し掛ける。
「何?」
「そろそろ、さ。クロスだけじゃなくて……ベルゼームも名乗る気、ない?」
ロッドは、クロスに真剣な眼差しを向ける。
「……クロス=ベルゼームって事……?」
「嫌、か?」
ロッドはじっと返事を待つ。
一抹の不安を抱きながら。
そして。
「……嫌じゃ、ない」
その返事に満足気に笑顔を浮かべるロッドに、クロスはそっと寄り添った。
そんな二人の耳に、フィンネル国の王子が各国の間で一目置かれる存在になったという噂が入るのは、もう少し先のお話。
=Fin=