その直後。
 ふわっと抱き締められる感覚があった。
「え……?」
 何が何だか分からなくて、璃琉羽は少し戸惑う。
「……忘れる訳、ないだろ」
 耳元で、少し掠れたような声が聞こえる。
「姫中。俺の事好きって、本当?中身は蒼でも、見た目は俺だぞ?本当に?」
 その問いに、璃琉羽はコクンと小さく頷いた。
 すると宗方は、璃琉羽を抱き締める腕に一層力を込めた。
「折角、両想いになれたのに……自分から離れていくような真似、するな……俺、今滅茶苦茶嬉しい……」
 そっと顔を上げると、宗方の嬉しそうな顔が見えた。
「……校内で姿を見かける度、すげぇ後悔した。あの日逢わなければ、今もメル友として傍にいれたのかなって」
 あの表情は、そういう意味だったんだ、と璃琉羽は思う。
「宗方君……」
「緋久」
「え?」
「緋久って呼んで、璃琉羽」
 急に名前で呼ばれてそんな事を言われ、璃琉羽の心はトクンと一つ高鳴る。
「緋久、君……」

 名前を呼ぶだけで、何だか温かいものが心に広がる。
 ずっと知りたかった、蒼君の本当の名前。
 それを今、ようやく知れた気がした。
 蒼君は、間違いなく彼なのだと。

「璃琉羽……好きだよ」
 はっきりとそう言われ、璃琉羽は嬉しくなる。
「ね……もっと言って」

 文字なんかじゃなくて、ちゃんと声で伝えて欲しい。
 思ってる事とか、気持ちを全部。

「何度でも言う……好きだ、璃琉羽。だから……」


『俺の彼女になって』


 その言葉に、璃琉羽は顔を赤らめつつも、元気よく返事を返した。
「うんっ!」


 出会いは一通のメール。
 偶然ではなかったけれど。
 それでも、私にとっては顔を知らない相手。
 だけど、私は――好きになった。



=Fin=