屋上で一人宗方を待つ璃琉羽は、必死に心を落ち着かせていた。
落ち着け、自分。
まずは始めに謝らなくちゃ。
酷い事言ってごめんなさいって。
それから……。
その時屋上のドアが開く音がして、宗方が現れた。
「っ!?姫、中……何でココに……」
案の定宗方は驚いていたが、すぐに誰かを探すように辺りを見回し始める。
「……朱夏ちゃんならいないよ?私が頼んだんだから」
「……姫中が?」
すると次の瞬間、宗方は踵を返してその場を立ち去ろうとした。
「待って!私、謝りたいの!」
「!」
宗方は足を止める。だが、振り返りはしなかった。
「そのままでいいから、聞いて欲しいの」
「……」
「私、宗方君に酷い事いっぱい言って、傷付けた」
本当は、顔を見て謝りたかった。
今どんな顔をしているのかと考えると、凄く怖い。
だが璃琉羽は、宗方の背に向かって言う。
「宗方君は何も悪くないのに、私の事、騙してもないし、馬鹿にしてもいなかったのに……本当にごめんなさい!」
璃琉羽は頭を下げる。
少しでも、伝わればいいと思った。
あの傷付いた表情が、少しでも和らげばいいと思った。
「……姫中」
宗方が振り向いたのが、気配で判る。
だが璃琉羽は顔を上げる事が出来なかった。
声だけでは、彼がどんな表情をしているのか分からない。
「姫中、顔上げて」
そう言われて、璃琉羽は恐る恐る顔を上げる。
「宗方、君……」
その表情は、やはりどこか辛そうで。
こんな表情を、させてはいけないと思った。
そうして璃琉羽は、思わず捲くし立てるように口を開いた。
「私、宗方君の事何も見えてなかった。本当の宗方君は、私が知ってるメル友の蒼君そのままなのに、噂ばかり信じて……私、そんな自分が嫌になる」
そのせいで、こんなにも傷付けてしまった。
凄く、凄く優しい人を。
それが悔しくて、璃琉羽は唇を噛み締め、目を伏せた。
「いいんだ。皆、同じ事を思ってる。姫中が気にするような事じゃないよ」
「よくない!だって私……蒼君が、好きなの……顔も知らないのに、好きになったんだもん!」
好き。
好きなの。
貴方の、心が。
「でも、それは……」
困惑した様子で何かを言おうとする宗方を遮って、璃琉羽は続ける。
「最初は信じられなかった……信じたくなかった。でも、メールをもうしないっていう文を読んだ時、凄く嫌だった。怖かった。……メールが届かないって分かった時、凄く辛かった。苦しかったの!」
凄く勝手な事を言っているのは分かっている。だが、止められなかった。
「……今も宗方君、辛そうな顔してる……そんな顔、して欲しくないって思うのはきっと、やっぱり貴方が好きだから……」
そこまで言って、だがすぐに自己嫌悪で涙が出てきた。
「ごめん……勝手な事言って……変、だよね、私……こんな事言う資格なんてないのに……今の、忘れて……」
両手に顔を伏せ、璃琉羽は泣いてしまった。