〜始まりの気持ち〜
宝珠を集め、虚無を再び封じるという目的の旅は、最終的には全く予想もしていなかった展開で終わり、月に残った神無と、一度は大地に戻ったものの、
もう一度天鏡を通り、月で神無の傍にいる事を選んだラティスは、現在二人一緒の生活を送っていた。
「神無、ご飯何?」
ラティスはそう言いながら、神無の後ろから覗き込む。
宝珠の管理、とはいっても普段は特にする事もなく。
ラティスはちょっとずつ月の民の仕事を覚え、神無は家事を頑張っていた。
「んー今日のはね、お隣のヨシさんから教えて貰ったの」
「へー……もーらいっ」
「あ、コラ!もー、つまみ食いはダメでしょ?」
「ごめん、ごめん」
神無が注意すると、ラティスは謝りながら彼女に軽く口付ける。
「……いきなりキスもダメ……」
そう言う神無は真っ赤だ。
ラティスは旅が終わって一緒に暮らし始めてから、ずっとこんな調子で。
食事時に神無はその事を聞いてみる。
「ねぇラティス。少し性格変わった?」
「何が?」
「いや、その……何ていうか、甘えてくる?っていうか……最近の感じ」
「……嫌か?」
少し哀しそうにそう言われて、神無は慌てて首を横に振る。
「あ、違っ、その、嫌とか、そんなんじゃなくてっ」
そんな神無を可愛いと思いながら、ラティスは口を開く。
「……ここには誰も文句言う奴なんていないし、折角二人きりなんだから。甘えたいし、神無を独り占めできて嬉しい」
ニコニコしながらそう言われ、神無は思わず顔を真っ赤にする。
「神無、照れちゃってかーわいいー」
「か、からかわないでよ!もうっ……」
「……好きだよ」
「……はい」
時々、急に真面目な態度になるラティスに、神無は少し弱かった。
そんな神無を、ラティスは愛しそうに見つめる。
本来ラティスの素の性格は、大人びて一歩引いた感じ、という旅の中で見せていたものとは違い、素直に感情を表すタイプだ。
どちらかというとそれは、マリノスに近い感じで。
神無が過去を受け入れてくれたからこその変化だ。
そうしてラティスは思う。
選んでよかった、と。
でなければ自分は今ここにはいない。
きっと過去に縛られたまま、今も苦しんでいた事だろう。
そうしてふと考える。
最初は何がきっかけだっただろうか?
神無を好きになったのは……。
ラティスは旅の始まりに、思いを巡らせる――。