〜プロローグ〜


 その日は月の見えぬ新月の夜だった。風が木々を揺らし、ざわめく。
 男は必死で抵抗していた。
「う……やめろ……お前の、好きにはさせぬ……!」

“我に身を委ねよ……”

 男を、邪悪な意思が支配しようとしている。
 永きに渡る封印から目覚めた邪悪な意思は、男の体を使って本格的に覚醒しようとしていた。
 あと数年もすれば初老を迎えるその男は、それでもじわじわと侵蝕してくる意思に抗う。

“早く楽になれ……”

 この存在に侵蝕され始めて何年経っただろうか?
 手はもう既に打ってある。

 薄れゆく意識の中で男はそう思った。
 次の瞬間、男は顔付きを変え、その口からは男のものではない声が発せられた。
『最後まで抗いおって……まぁいい、時は満ちた。今こそ我の完全復活だ!』

 男の意思は消え、邪悪な存在は人知れず覚醒した。