月に残った神無は一人、天鏡を背に声を上げて泣いていた。
「――っうぁぁぁぁ!ラティスっ……ラティスぅ……っ」

 胸が苦しい。潰れてしまいそうだ。
 もう二度と。
 逢う事は叶わない――。

「ラティス……っごめんなさぃ……ラティス……っ!」

 嘘を、吐いた。
 またいつでも逢えると。
 そうするのがラティスの皇子としての将来の為だと思った。

 もし彼が、皇子ではなかったら。
 皇子だと知らないままであったら。彼の両親が現れなければ――。

 ずっと一緒にいたかった。
 ラティスがここに残ると言ってくれた時、正直、凄く嬉しかった。
 だが、神無は縛り付けてはいけないと思った。

 いつか、自分はラティスを忘れてしまうのだろうか?
 いつか、自分はラティスに忘れ去られてしまうのだろうか?
 それが何だか怖い。

「……ラティス……っ!」
 その時だった。

「神無」

 その声にハッとして、同時に耳を疑う。

 いるハズがない。
 だって、彼はもう――。

 だが、振り返らずにはいられなかった。
 そこにいたのは。
「……ラティス……どうして……?」
 嬉しさと同時に、疑問が出る。
「……泣いてると思ったから」
「――っ!ラティスっ……!」
 思わず神無はその胸に抱き付く。

「……ラティス……本当にラティスだぁ……」
「……もう少しで、一人でずっと泣かすトコだった……」
 ラティスは強く神無を抱き締める。
「ったく、一人で泣くくらいなら無理すんな……ずっと一緒にいようって約束したろ?」
「うん……っ……ごめんなさい……っ」
 神無は素直に謝る。
 抱き付きながら言われるそれは、甘えているようにも見て取れて。
 ラティスは嬉しくなって満面の笑みだ。


「神無……愛してるよ」

 自然とそう言葉が出てきて、ラティスは内心驚く。
 だけど、妙にしっくりする。

 “好き”なんて言葉じゃ足りない。
 “大好き”よりも深い想い。
 何を引き換えにしても守りたい、傍にいたい大切な相手だから。

「愛してる……」
 もう一度そう言って、ラティスは神無に口付けた。
 唇が離れると、神無は縋るような瞳でラティスを見上げる。
「ずっと……傍にいて、くれるんだよね……?」
 それは、一度手離してしまった事に対する後悔と後ろめたさからくる不安がありありと表れていて。
 ラティスは愛しい者を見つめるような、優しい笑顔を向ける。
「勿論。もう絶対離さない――」
 その言葉に神無は、ようやく満面の笑顔を見せた。

 そうして二人は、今度は深く口付けを交わした――。