眩い光に思わず目を閉じ、開いてみればそこはもう月ではなかった。
 帰ってきたのだ、大地に。
 神無を一人、月に残して。

 今にも泣き出しそうな表情をしていた。
 一人にしてはいけなかったのだ。
 戻らなければ。
 今すぐ。
 月に。

 再び天鏡に入ろうとしたラティスは、フォリシスに止められた。
「何すんだ、離せよ!戻らなきゃアイツが……神無が泣いてるんだ!」

「ダメですよ!今行ったら、もうこちらには戻ってこれなくなりますよ!?」

「え……?」
 ラティスはフォリシスを見、その視線をリムや国王達に向ける。
「先程から月光と湖の輝きがどんどん弱くなっているのです。渦も徐々に小さくなり……天鏡が閉じるのは、時間の問題です」
「元々天鏡は虚無によって無理にこじ開けられたものだ。それが閉じても不思議はない」
 ミラーラと国王の説明に、リムも頷く。
「月からこちらに戻ってくる時も、渦が小さくなっているのを感じました。間違いないでしょうね」
「まさか……神無、それに気付いてて!?」
 皆、何も言わずに沈痛な面持ちだった。

「――っ!俺は戻る!」
「神無の想いを無駄にすんのかよ!?」
 そう言ったのはマリノスだ。
「神無はお前の為を思って、家族で幸せに暮らして欲しいから嘘を吐いたんじゃねぇのかよ!?」

「そんなの知るか」

「なっ……!?」
 驚くマリノスに、ラティスは不敵な笑みを浮かべる。

「好きな女が泣いてるんだ。放っておけるかよ」

「!」
「……そういうワケだからさ。俺、行くわ」
 そう言って笑ったラティスは、何だか吹っ切れているようだった。


「……ラティス」
 国王は静かに、自分の息子を呼び止める。
「後悔は、しないか?」
「……しないよ」
「……ラティス……」
 ミラーラは少し悲しそうな顔をしている。
「神無は俺の大切な人なんだ。だから……父さん、母さん。元気で、な」
 少し照れ臭そうにそう言って、ラティスは天鏡に再び入った。


 その直後、天鏡は完全に閉じ、小島には平穏が訪れた――。