「あの、最後に皆で記念撮影でもしませんか?」
満月の提案で、旧生徒会メンバーで写真を撮る。
そういえば、このメンバーでデジカメで写真を撮るのは初めてだな。
夏の合宿の時は、携帯のカメラぐらいしかなかったし。
全員一緒の記念撮影から始まって、男女に分かれて撮ったり、弓近と二人だけで撮ってもらったり……。
何枚も撮って、画像を確認すると、そこには全員の幸せそうな笑みが浮かんでいて。
最後にいい思い出ができた。
「じゃあ、写真できたら送りますね」
「ああ。楽しみにしてる」
私も楽しみだ。
思えば私は、弓近と二人だけで写っている写真を持っていないから。
勿論、小さい頃の写真の中にはあるだろうが……やっぱり最近の写真の方がいい。
「それじゃあ、そろそろ私達は帰るとするか。両親も祝いの席を用意しているだろうし」
そう言って生徒会室を後にしようとすると、太陽が引き止めてきた。
「最後に一つだけエエですか?二人に報告があるんですわ」
「報告?」
「ほら、星。お前から言わんかい」
その太陽の行動に、私達は首を傾げる。
何だ?星に振る所を見ると、少なくとも生徒会関係じゃなさそうだが……。
「別に報告するような事じゃ……」
渋る星にますます首を傾げていると、満月が傍まで来て、小さな声で言った。
「あの……ありがとうございました。私を、生徒会に誘って下さって」
その言葉に、私はピンと来る。
というか、コレはもう一つしかないだろう。
「え!?もしかして……」
「想いが通じたみたいだな」
「はいっ」
その事に私は、自然と笑みが溢れる。
少しだけ、心残りではあったんだ。満月と星の事。
自らのエゴのような思いから満月を応援して。
自分だけ先に幸せになってしまったから。
しかも丁度同じぐらいの時期に、私は生徒会と関わりがなくなって。
中途半端になってしまった為、気に掛けていたんだ。
だから、二人が付き合うようになった事は、本当に嬉しい。
最後の最後に、こんな嬉しい報告が聞けて良かった。
三人に別れを告げ、私と弓近は帰路に着く。
ただ無言で。
話したい事は色々あるが、今は何も話す気にならない。
様々な思いや感情、今までの思い出が多くて。
それら全てをゆっくりと噛み締めるように。
心地良い気分で感じていたいから。
そうして家が近くなってきた所で、私は弓近に話しかけた。
「……なぁ、弓近」
「ん……」
「良かったな、あの二人」
「そうだな」
「卒業式は別ればかりで、寂しい気もしていたが……今は幸せな気分だ」
「……俺もそう思う」
「お前の事を、皆に言えて……満月も星と想いが通じて……高校生活に悔いも心残りもない」
「そっか」
「こんな状態で新生活を始められるって、凄い事じゃないか?」
「確かに、ある意味理想的だよな」
過去にばかり囚われるのは、愚かしい事だと分かっていながら、人は過去を振り返らずにはいられない。
前を向いて歩いていくには、特に新しい生活を始める時には。
できるだけ、悔いも後悔もない方がいい。
だから今の私達にとって、これ程いい状態はないだろう。
「でも、そうか。新しいスタートを、今度は琴音と一緒に始められるんだな」
「幼馴染としてではなく、な」
その言葉に、私達は笑い合った。
決して叶わない想いだと思っていた。
幼馴染という、その立場は変わらないのだと。
どんなに近くても、近付きたくても、越えられない壁のようなものがあって。
近くて、でも遠い存在。
けれど叶うはずのない想いは思いがけず通じて。
誰よりも近い存在になった。
それは、新しい私達の始まり。
=Fin=