取り敢えず逃げる事が先決とばかりに、礼義は細い通りを抜け、裏路地を這うように右へ左へと行く。
 地元の礼義は裏道を熟知しているが、二人には土地勘が全く無い。その内迷うだろう。
 てか迷え。

 逃げながら礼義はしっかりと智の手を掴んで離さない。
 真夏に全力疾走はきついものがあるが。

 礼義は走りながら言う。
「智ちゃん!」
「な、何?」
「大好き!」
「!れ、礼君っ!」
 明らかに暑い中走っているのとは違う理由で智は真っ赤になる。
 その様子が凄く可愛くて、礼義は顔を綻ばせる。

「わ、私も……!」
「んー?」
「私も、好き……っ」
 その言葉に礼義は驚いて思わず立ち止まる。

「智ちゃん……」
 もう追っては来ない。どうやら撒いたらしい。
「もっ回、言って?」
「……言わなきゃ、ダメ?」
「出来れば聞きたい」

 実は好きと言われたのは初めてだったりする。
 始まりが始まりだし、敢えて聞くような事はしなかったから。
 智は困った顔をして、言おうかどうしようか迷っているようだった。
 そうして諦めかけた頃。

「……好き……」

 呟くように、本当に小さな声で、だがハッキリと聞こえたその言葉。
 礼義は満面の笑顔で。

「俺も」

 そう言った。


 どんな邪魔が入ろうとも、繋いだこの手を離さないと誓って。


 後日。
「礼君どうしよう。弟の忠が今度月羽矢受験するって……」

 ……どんな邪魔が入ろうとも。



=Fin=