これは、幼い頃から決まっていた事。
いつか家の為に婿を取って、家を継いだその人と添い遂げなければならないという事は――。
≪past story≫
初音は今日、親の決めた許婚と会う事になっている。
初音はまだ十九歳。女子短大の一年だ。
そして相手は初音よりも三歳年下の、今年高校一年生。
せめて相手が高校生になるまでは、と会わせるのを控えたらしい。
「今日会う人が未来の旦那様、かぁ……」
自由な恋愛が望めない事は分かっている。
向日という家は、由緒ある家柄。それ相応の身分の者と結婚しなければならない。
加えて初音は長女で男の兄弟がいない為、婿を取らなければならない。
しかし頭では理解していても、心は憂鬱だった。
「せめて、優しい人だといいな……」
「初めまして。真嶋和幸といいます」
そう名乗った相手は、一見すると穏やかそうな、物腰の柔らかな人物だった。
とても高一には見えない落ち着いた態度は、初音にとって好印象だった。
「初めまして。向日初音ですわ」
そう言って微笑みながら、初音は相手について考える。
真嶋。
確か真嶋といえば、向日の傘下に“真嶋重工”というのがあったハズだ。
そこは長男が継ぐだろうから、婿に来るとするなら次男の方だろう。
自分の記憶に間違いがなければ、あそこは二人兄弟で他にはいなかったハズだし……。
初音の予想通り、和幸は真嶋家の次男だった。
その日から週に何度か、お互いの時間が合う時に会う事になった。
「ねぇ、姉様。和幸さんて、どんな方?」
そう興味津々に聞いてきたのは、六歳離れた妹の清美だ。
彼女はまだ和幸に会った事がない為、未来の義兄がどんな人物か気になるのだ。
「んー……優しいけど普通の人かしら。まぁ、まだ高校生になられたばかりだし……というか、優しすぎるあの性格は、あまり人の上に立つ器ではないと思うのだけれど……」
和幸は優しすぎて何かが足りない。
それともそれは、まだ十分に年を重ねていないからなのだろうか?
はたまた、自分が気付いていないだけなのだろうか?
健全なお付き合いだけでは見えないものもあるのかもしれない。
「姉様?」
ボンヤリと考え込んでいた初音は、清美に呼ばれて我に返った。
「なぁに?清美」
「あの……今度、連れて来て下さらない?」
「えぇ、いいわよ。丁度彼も貴女に会ってみたいと言ってらしたし」
初音が微笑んでそう言うと、清美は「どんな方なのかしら?」と、楽しむように言った。
まさかそれが、後の運命を大きく変える事になろうとは、この時はまだ誰も、知るよしもなかった。