「和幸さん、私の妹の清美です。清美、こちらが和幸さんよ」
とある休日、初音は和幸と清美にお互いを紹介した。
だが二人は、お互いに見つめ合ったまま、何も言葉を発しようとはしない。
「……?二人共、どうかしたの?」
初音が怪訝に思ってそう声を掛けると、二人は我に返った。
「あ、あぁ失礼致しました。初めまして、真嶋和幸です」
「は、初めましてっ!妹の清美です!」
心なしか、二人共微かに頬を染め、挨拶をする。
その様子に初音は、漠然とした絶望のようなモノを感じた。
何という事だろうか。
もし今、感じた通りだとしたら。
それはあまりにも残酷な運命――。
初音は他人の気持ちに敏感だった。
それは、幼い頃から向日という家の中で育ってきた事に関係している。
向日という家の長女として生まれた初音の周りには、昔から様々な思惑を持って近付く輩が後を絶えなかった。
利用しようとする者、取り入ろうとする者、向日の跡継ぎという地位と財産を狙う者、妬み嫉みや、恨みをぶつけてくる者……。
勿論、中には初音と似たような境遇の子もいたから、そういう子とは仲良くした。
とにかく、初音は自身の身を守る手段の一つとして、他人の気持ちには自然と聡くなっていった。
その初音が感じたモノ。
和幸の方は確証が持てないが、少なくとも清美は確実に。
二人は互いに一目惚れしてしまったのだ。
案の定、翌日から清美は時々、物思いに耽るような表情をしたかと思うと、首を横に振り、今度は思いつめた表情をするようになった。
そうしてやはり和幸も、初音と会っている時に時々上の空になる事があって。
時々和幸が家に来ると、清美も和幸も互いに相手を意識しているという事が、ありありと分かった。
視線が合おうものなら、互いに頬を染めて思い切り不自然に顔を逸らすくせに、ちらちらと相手を盗み見ているのだから。
ただ、どうやら二人はお互いに自分の後ろめたい気持ちに精一杯らしく、相手も自分を想っているという事に全く気付いていないようだった。
二人は互いに恋をしてしまって。
だが、初音にはどうする事も出来なかった。
二人を会わせなければよかったと、後悔する事さえ。
和幸は親が決めた初音の許婚。
もし初音が二人を引き会わせなかったとしても、彼との結婚が定められた未来である以上、この二人の出会いもまた、必然なのだから。
せめて自分と清美の立場が逆だったら、どんなに良かったろうか?
あるいは、自分に別の誰かが現れて、和幸が清美の許婚になれば……。
初音には、そう思い悩む事しか出来なかった。