その年の秋の終わり頃には、清美と和幸の婚約が正式に決まって。
それから二年後――。
「虎太郎さん。この子の名前、何がいいかしら」
二人の間には、男の子が産まれた。
「初音さんは、どんな名前がいいと思いますか?」
「そうねぇ……虎太郎さんが“虎”なんだから、この子には“龍”なんてどうかしら?」
「“盾波 龍”か……それとも、“盾波 龍太郎”?」
虎太郎はクスクスと笑って、直後、思い付いたように言う。
「“龍矢”なんてどうです?今の俺達があるのは、月羽矢のお蔭ですから」
月羽矢の“矢”を貰って“龍矢”。
その提案に、初音は嬉しそうに言う。
「それは名案だわ。“盾波 龍矢”……うん。この子の名前は“龍矢”。いい名前だわ」
“龍”と“虎”は、しばしば、優劣つけ難い英雄二人の事を指す事があるから。
虎太郎に負けないぐらいの人物に、育って欲しいと思う。
そうして、月羽矢の“矢”の字を貰ったのは、自分達が助けて貰ったように、誰かの助けになれるように、正しい行いができる人になって欲しいとの願いを込めて。
「ちなみに、女の子だったらどんな名前がよかったですか?」
「女の子だったら?……“幸花”かしら。花のような笑顔で、皆を幸せにできるように」
「いい名前ですね」
そうして二人は、龍矢に満面の笑みを向けた。
それから四年後。清美と和幸がようやく結婚したとの連絡が入った。
和幸が社会人として修行を積んで。
これからは経営者としてのノウハウを学んでいく事になるから、との事らしい。
二人の結婚式には参列できなかったが、後日、幸せそうな二人の写真が送られてきた。
そうして更に七年後。龍矢が十一歳になった時。
清美と和幸の間に、ようやく女の子が誕生した。
「清美達の子供の名前、“幸花”にしたって」
「昔、女の子だったら付けたいって言ってた名前ですね」
「そう。和幸さんの“幸”の字が入ってるからって」
「あぁ、成程。……名前の通り、育つといいですね」
「えぇ。いつか龍矢と会わせたいわ。それで、二人が結ばれてくれたら嬉しいんだけど」
「十一歳差ですよ?」
「いいの。そうなったら素敵だなって、私の願望なんだから」
二人はクスクスと笑いながら、今ある幸せを噛み締めた。
初音が言った言葉が叶うのは、もう少し先のお話。
皆が幸せになれる方法。
それは決して、褒められた方法ではなかったけれど。
いつだって、最後に道を選ぶのは、自分自身の責任だから。
そうしてこれは。
この四人しか知り得ない、過去に起こった、真実の物語――。
=Fin=