≪とっておきの場所≫


 若葉生い茂る新緑の季節。
 この時期のよく晴れた休日の昼間は、縁側で日向ぼっこをするのが水希の一番のお気に入りだ。

 ポカポカとした春の陽射しと、爽やかに吹きぬける風。
 春先だとまだ少し肌寒さが残るし、だからといってこの時期を過ぎれば梅雨に入り、その後はもう初夏の陽射しになる。
 だから、楽しめるのはこの僅かな期間だけだ。


 そんなある休日の日。
 水希は日向ぼっこに工を誘う。
「工さん。今の時期は縁側がとても気持ち良いんですよ」
「そうなんですか?」
 そうして縁側に二人並んで腰掛ける。
「目を閉じると、風が音を運んでくるんです」
「風が?」
 言われて目を閉じた工は、風の音に耳を澄ます。

 聞こえてくるのは、風が木々をさわさわと揺らす音。
 それに混じる、鳥の声。
 時折、子供達の楽しそうに遊ぶ声も聞こえてくる。

 それは、都会の喧騒から切り離されたかのような、ゆったりと流れる心地いい時間。

「……気持ち良いですね。柔らかい陽射しも、穏やかな風の声も」
「この時期だけなんです。私の一番のお気に入り」
「分かります。何だか、ホッとする……」
 話しながら二人は、段々と眠くなっていった。


「あらあら、二人共、こんな所で寝ちゃって……」
 縁側で二人、寄り添って寝ているのに気付いたのは、水希の母親だ。
「まぁこの時期なら、寝冷えして風邪を引く事もないでしょうけど」
 そう言ってふふっと笑いながら、祖父達を呼びに行く。
「ねぇ、ちょっとこっちに来て頂戴。いいモノが見れるわよ」

 そうして水希の祖父と父が、何事かと顔を出す。
「一体どうしたんでぃ……っと、こりゃぁ……」
「……仲睦まじい事で」
「ね?いいモノでしょう。起きるまでそっとしておいてあげて下さいね」
「おぅ」
「だな」


 この時期だけの、とっておきの場所。
 それは、ゆっくりのんびりとした時間。


=Fin=