小鳥遊ことりは高校一年生にしては小さく、149pしかない。
 その為、酷い時には小学生に間違えられる事もしばしば。
 周りはそんなことりが可愛くて仕方がないのだが。

「も〜っ!小さくて可愛いとか言うなぁ!」


≪大型犬と小鳥ちゃん≫


「ことりはさ、可愛いって言われるの嫌い?」
「……それは嫌じゃないよ?でもね……“小さいから可愛い”って言われるのは嫌いなのっ!」
「何で」
「普通小さい子は可愛いでしょ?でもそれって、子供扱いされてるのと同じじゃない」
 ことりの場合は、基本的に可愛いと言われるのは顔ではなく背の高さ。
 それがどうしても年相応に見られていないように思えて、ことりは悔しいのだった。
「でもねぇ……背が伸びる方法、色々試したんでしょ?」
「う゛っ……」
 そう指摘されればことりは何も言えない。
 確かにことりは様々な民間療法を試してみた。
 牛乳を飲む、カルシウムを取る、鉄棒にぶら下がる、etc...。どれも効き目はなかった。
「というかさ、ことりの場合、遺伝なんじゃない?おじさんもおばさんも背、低いし」
「〜〜っ!早苗ちゃんの意地悪〜っ!」
 早苗はことりの昔からの親友だ。だからお互いの事はよく知っている。
「ま、その内現れるわよ。子供扱いじゃなく、小さくて可愛いって言ってくれる人が」
「……早苗ちゃんも子供扱いしてるんだ……」
「私の場合、子供扱いじゃなくて妹扱いかな?」
 ことりにとって、早苗は親友であり、お姉さんみたいな存在で。
 だから“妹”と言われて嬉しそうに笑う。
(妹扱いならいいんだ……)
 と、早苗は内心呆れていたが。


 ことりが皆から可愛いと言われて、それに対しての愚痴を早苗が上手く丸め込む、といったやり取りはもう殆ど日常的になっていて。
 ことりの機嫌が直ると大体他愛のない話題に移るのだが。

 今日はいつもと違った。
「……何だか廊下が騒がしいわね」
 ざわざわといった感じのどよめきが廊下から広がってくる。
 ことりと早苗は、何だろう?と視線を廊下に向ける。
 と。
「「っ!?」」
 教室の入り口に、皆より頭一つ分抜き出た男子生徒がいた。
「……おっきい……」
「……巨人だ……」
 ことりの呟きに、早苗はプッと吹き出す。
「巨人ってアンタ……」
「だ、だって早苗ちゃんっ」
 そんな事を話していると、その人物は何と二人の傍まで来た。
「小鳥遊ことり」
「は、はいっ?」
 突然名前を呼ばれ、ことりは思わず声が裏返る。
「突然で悪いんだけど、今日から俺の彼女になってくれ」
「ふぇ……?」
「返事」
「は、はいっ!……あ」
「よし、決まりだ」
 流されるようにことりは思わず返事をしてしまい、しかもそれを肯定の意に取られてしまう。
「……バカことり……」
 早苗は傍で呆れ、ことりは慌てて訂正をしようとする。
「あ、あの、今のは……」
「俺は三年の戌井健。じゃあまた後でな、ことり」
 だが彼はそう名乗るとさっさと教室を出て行ってしまった。

 後に残されたことりは暫く呆然とし、周りの声に我に返った。
「今のって有名な三年生の戌井先輩だよね!?」
「ことり、知り合いだったの!?」
「え、有名?」
「知らないの!?背が高くて、ちょーっと怖いイメージあるけど、結構人気あるんだよ?」
「そうそう。バスケ部のキャプテンやってて、ファンクラブまであるって」
「へー」
 ことりが薄い反応を返すと、周りは信じられないといった溜息を吐いた。

 だって、知らない人だし。
 カッコイイとか、そういう前に身長差ありすぎるし。


 ことりは合唱部だ。その為、放課後はいつも第二音楽室で部活動をしている。
「結局あの後、先輩来なかったね」
「うん」
 ちなみに早苗も同じ部活。つまり二人は殆どいつも一緒だ。
「また後でって言ってたから、案外そろそろ来るかもよ」
「えぇっ!?」
 そんな話をしていると、音楽室の入り口が不意に騒がしくなった。
「……噂をすれば、ってヤツ?」
「え……?」
「ことり」
 自分を呼ぶ男の声に、ことりが視線をそちらに向けると、そこには健がいた。
「せんぱい……」
「今日、一緒に帰りたいから、部活が終わったら体育館に来て。俺、バスケ部だから部活終わるのちょっと遅いけど」
「あ、あの私……」
「じゃあ、約束」
 にっこりとそう言うと、健は「やべ、もうすぐ部活始まる」とか言いながら去っていった。

「〜〜っ!早苗ちゃん、どうしよう〜っ!」
「すぐに断らないアンタが悪い。諦めて今日は一緒に帰りなさい」
 泣き付くことりを早苗はバッサリと一刀両断して切り捨てる。
「えぇっ、そんなぁ〜」
 ことりはそう言って抗議をするが、早苗は聞く耳を持たなかった。