≪伝わる気持ち≫
清良が病院から退院して春斗と一緒に暮らすようになってから数週間。
体の包帯も殆ど取れた頃、春斗がある提案をしてきた。
『お買い物に行きませんか?』
「……で、何で服?」
今清良がいるのは、ショッピングモールで。
何故か服を選ばされていた。
『全快のお祝いに、清良さんに似合う服をプレゼントしたいと思って』
思い返してみれば、清良は基本的に普通の服を殆ど持っていなかった。
不良グループにいた頃は特攻服が主だったから。
だから、まぁ普通の服も悪くはないかと思って、比較的ラフな物を見ていた。
少しして、春斗がドコにいるか店内を見回すと。
「ゲッ……!?」
物凄い満面の笑みで、上下一揃いの服を持ってきた。
「テメェ……アタシにコレを着ろと……?」
案の定持っていた服を差し出され、清良は口元を引き攣らせながら言う。
「こんなピラピラヒラヒラした服が着れるかっ!」
すると春斗は目に見えて残念そうな顔をした。
春斗が持ってきた服は、上が服の至る所にフリルの付いたブラウスと、下は明らかに裾が広がると見て分かるワッシャースカート。
どう考えても今までの清良のイメージとは掛け離れた代物だ。
春斗は清良と服を何度も見比べて、ジッと清良を見つめる。
それがまるで、おねだりをする子犬みたいに見えてきて。
……というか、実際に着て欲しいと思っているのだから、おねだりしているのと同じなのだが。
春斗と一緒に暮らすようになって、清良は何となく彼の表情から、彼の言いたい事が分かるようになっていた。
「……ぜってー、着ない」
清良はそれでも何とかそう言って。
言われて服を元の場所に返しに行く春斗は目に見えて落ち込んでいた。
それが清良はどうにも苛々して。
「……っあーもう!わーったよ、着ればいいんだろ、着れば!」
ついに根負けして清良がそう言うと、春斗は物凄く嬉しそうな顔をする。
「ぜってー似合わないからな!幻滅しても知らないからな!?」
それでも着て貰えるという事で嬉しそうに頷く春斗に、清良は渋々試着室に入って着替える。
「……似合わねー……」
試着室の鏡で自分の姿を見て、清良はそう呟く。
何となく今の自分の格好を春斗に見せたくなくて。
でもきっと、凄く楽しみにしてるんだろうな……と思いながら、渋々試着室から出る。
「……!」
すると春斗は清良を見て、驚いた表情をして呆然とした。
「だ、だから言っただろ?似合わないって……」
清良はそう言って、着替えようと試着室に戻ろうとする。
すると急に抱き締められ、優しく髪を撫でられた。
「春斗っ!ここお店!」
そう抗議するが、春斗は優しく目を細めて清良を見つめて。
そんな春斗の視線に、清良は何も言えなくなってしまう。
「……春斗、は。アタシにコレ、着てて欲しいの……?」
そう聞くと、春斗は頷いて。
メモ帳を取り出して何事か書く。
『今度、この服着てデートしましょう』
「だから……っそういう事を真顔で書くな、バカ……」
真っ赤になって、春斗の腕の中で大人しくなる清良に、春斗はニッコリ微笑んだ。
言葉はなくても。
目は口程に、物を言う。
そんな日常。
=Fin=