≪伝えたい感情≫
春斗と一緒に暮らすようになって、清良は一つ気付いた事がある。
「春斗ってさー……」
「?」
「基本的に殆ど家から出ないよなー」
すると春斗は何食わぬ顔でメモ帳に書き記す。
『そうですか?』
「……春斗が外出する時って、殆ど日々の買い物の時だけじゃんか!」
そう。
春斗の生活の基準は、家での翻訳の仕事と、日々の買い物をする為に行くスーパーだけだ。
その他では、清良が退院した時に行ったショッピングモールが一度きり。
『だって、デートに誘っても清良さん、行きたがらないじゃないですか』
「今更あたしが遊園地とか動物園に行って喜ぶとでも思ってんのか!?」
『映画にも誘いましたよ?』
「誰がラブロマンス映画なんか見るかーっ!」
『……じゃあどうすればいいんですか』
「TVとかで話題になってる場所とか」
『……人込みはちょっと苦手なんですけど……』
「……」
春斗の場合。
人とのコミュニケーション手段が限られてくる為、どうしても他人との関わり方が難しくなってしまって。
だから人込みは苦手なのだ。
例えば、人込みで誰かにぶつかったり、足を踏んでしまったりしても、声が出せない分、どれだけお辞儀をして謝っている態度を見せても、そうは取ってもらえない場合が多くあるからだ。
「よし。じゃあ今から出掛けよう」
『どこに、ですか?』
「いいから!ほら、さっさとする!」
「???」
訳が分からないままに清良に連れてこられたのは、ゲームセンターだった。
「ほら、行くぞ」
そうして中に入った途端。
「!」
その物凄い大音量に、春斗はビックリした。
清良は春斗のメモ帳を借りると、そこに綺麗な字で書き記す。
『ここのゲーセンは特に音が大きすぎて、大声じゃないと聞えないから。こういう時便利だよな、コレ』
ニッと笑う清良に、春斗は嬉しくなる。
『ありがとうございます、清良さん』
それを見せると、清良は少しだけ顔を赤くしたようだった。
ゲームセンターでレーシング対決やUFOキャッチャーで遊んだ後。
『プリクラ撮りましょうか』
プリクラの機械を見つけた春斗が清良を誘った。
「えぇー?つっても、配る相手いないし」
『いいじゃないですか。撮りましょう?』
渋る清良を何とか誘って、春斗は色々操作をする。
『どうせだから毎回ポーズを変えましょうか』
「……それは普通に基本だと思うんだけど」
そうして何回か撮って、最後のポーズになった時。
カシャ。
「……今。何した……?」
画面に映し出されたのは、春斗が清良の頬にキスをしている写真で。
“写真を選んでねー”という機械の声に、春斗は真っ先にその写真を選んだ。
「ちょっと待てっ!これはキャンセル!他の選べーっ!」
だが、清良の叫び虚しく、春斗はさっさと写真を選んで決定してしまった。
「信じられない。何であそこでキスする!?しかも、しかも……っ」
『綺麗に撮れてますよね。こういうの“キスプリ”っていうんでしたよね、確か』
恥ずかしさのあまり、わなわなと体を震わせる清良に対し、春斗はご満悦の表情だ。
『いいじゃないですか。誰に見せる訳でもないですし』
「そ、れは……そう、だけど……」
『今日は本当に楽しかったです。これはその記念ですね』
そうしてニコニコする春斗に、清良はまぁいいかと思う。
外には楽しい事がいっぱいあるんだから。
たまには外に出て、楽しんでもらえるなら。
=Fin=