≪伝わらない行動≫
それは、春斗と清良が一緒に買い物に行った帰りだった。
「あ、ちょっとコンビニ寄ってこーよ」
コンビニを見つけた清良は春斗を誘う。
「?」
「コンビニ限定品とかあるからさ」
清良の意図が分かって、春斗は快く頷く。
コンビニの入り口前にはガラの悪そうな高校生がたむろしていた。
しかしさすが元不良というべきか。清良はなんの躊躇いもなくそこを突っ切ろうとする。
「おいテメェ!俺らがいるだろうが。何突っ切ろうとしてんだよ!?」
「そうそう。他のトコ行けよ」
「ハァ?こんなトコにたむろってる方が悪いと思うケド?」
ケンカ腰に話す清良に、春斗が慌てて止めに入る。
『ケンカはよくないですよ』
「ケンカ売ってきたのはアッチの方」
『清良さんが相手の神経を逆撫でするからですよ』
「そもそもこいつらが邪魔なんじゃんか!」
二人で話していると、それまで唖然と見ていた相手が声を荒げる。
「オイコラ!無視してんじゃねーよ!」
「あ゛ぁ!?」
清良が睨みを利かせると、相手は一瞬怯んだ。
ガラの悪そうな、とはいっても所詮虚勢を張って粋がっているただの高校生。
一目見れば分かる。
だが相手は清良と春斗の二人だけだと見ると、途端に態度を大きくさせた。
「ハッ。お前らこっちの人数見えねぇのかよ」
「女と細っこい男の二人だけじゃねぇか。こっちは五人いるんだぜ?」
「俺達は女だからって手加減しねぇぞ?」
そう、相手は五人。
だが清良は別に物怖じしない。
春斗は足手まといになりそうだから、下がっててもらって。
だけど、大した修羅場もくぐっていないような高校生五人程度なら、別に何とかなる。
そう考えて、清良は挑発するように言う。
「たむろするぐらいしか能のないただの高校生が何人いても、別にどうって事ないけど?」
「な……っ!」
「テメェ!」
すると予想通り、相手の一人が殴りかかってきた。
「春斗は下がってろよ!」
清良はそう言いながら殴りかかってきた相手を簡単に避ける。
だが。
「春斗っ!?」
春斗は下がるどころか逆に前に出て、相手の拳を手の平で受け止める。
驚く清良に春斗はニッコリと微笑む。
そうして相手の拳を掴んだまま、逆に捻りあげてしまう。
「イテ!イテェ!離しやがれ!」
痛がる仲間を見て、他の四人は春斗に向かっていく。
「調子こいてんじゃねーぞ!」
「その手を離しやがれっ!」
だが春斗はそのまま簡単に攻撃を避け、ついでに掴んでいた人物を相手の方に向かって放る。
「うわっ!」
それは見事にぶつかり合って、その場にもつれ込んだ。
「ウソ……」
一連の流れを、清良は呆然と、ただ見ているだけしか出来なかった。
だが先程のを間一髪で避けたのが一人いたらしい。
「くっそ、手加減してりゃいい気になって……」
そう言いながら制服のポケットからバタフライナイフを取り出した。
「!覚悟も出来ないトーシロがそんなモン持つな!」
清良は慌ててそう言うが、頭に血が上っているらしい相手は全く聞く耳を持たない。
「ウルァッ!」
そいつはナイフを振り上げ、春斗に切りかかる。
清良は止めようと手を伸ばすが、ギリギリで届かなかった。
「春斗ーーーっ!」
思わず清良は春斗の名前を叫ぶ。
しかし。
刺されると思っていた清良の予想とは裏腹に、春斗は紙一重でそれを避けると、相手のナイフを持つ腕を自分の腕で抱え込むように押さえつけ、手首に手刀を入れてナイフを叩き落した。
そうしてそのまま相手の懐に入り込むと、見事な一本背負いを決めた。
「は、ると……?」
思わず一連の流れを唖然と見ていた清良は、恐る恐る春斗に声を掛ける。
すると春斗は清良に振り返り、ニッコリと笑顔を見せる。
『彼ら、どうしましょうか?』
その言葉に清良はハッとして、相手の一人をキッと睨みつけると、「これ以上やられたくなかったらさっさとどっか行け!」と追い払う。
流石にこれ以上歯向かう気はないらしく、すごすごと逃げていった。
それを見送ると、春斗がいきなり清良の手を引いて歩き始めた。
「ちょ、春斗?」
すると春斗は目配せをし、ここで初めて清良は、かなり集まった野次馬に気付いた。
家に帰って、清良は意外そうに言う。
「……春斗って強いんだな」
『護身用に武術を習った事があるんですよ。絡まれた時に、声が出せないと助けも呼べませんから』
ニコニコとしている春斗に、清良は納得の表情を向ける。
「そっか、それで……でも、こっちはビックリしたんだぞ?」
『すみません』
「相手はナイフとか出してくるし」
『僕の名前、叫んでましたよね』
どこかからかうような春斗の笑みに、清良は顔を赤くする。
「い、いいだろ別に」
『嬉しかったです』
その言葉に、清良は照れたようにそっぽを向いた。
『それにしても。女の子がケンカなんてよくないですよ?怪我でもしたらどうするんですか』
「……そんなの今更だろ」
清良が視線を逸らしてそう言うと、春斗は両手で頬を挟んで自分の方に顔を向けさせる。
「……」
怒ったような表情で真っ直ぐに見つめられて、清良はその視線から逃れようとするが、両手で頬を挟まれているのでできなかった。
折角不良から足を洗ったのだ。
これからは人並みの幸せを送って欲しいのだと、春斗はそう言いたいのだろう。
それが分かって、清良は素直に謝る。
「……ゴメン」
すると春斗はフッと微笑み、そのまま清良にキスをする。
「っ!?」
そうしてキスを終えると、春斗はそのまま清良を抱き締める。
「〜〜っ」
真っ赤な顔で何も言えないまま、清良は素直に春斗の腕の中にいた。
(……反則だ、こんなの……)
「……春斗」
「?」
「……バカ」
顔を逸らしながらそう言うと、春斗が微笑った気配がした。
言葉がないから、余計にそれは予測できない行動。
=Fin=