確か、あの日も雨が降っていた。
八年前の、あの日も――。
≪reliance≫
それは、一本の電話から始まった。
『盾波、龍矢(たてなみ、りゅうや)さんで、宜しいでしょうか?』
「あ、はい」
『私、弁護士の絹川春秋(きぬかわはるあき)と申します。突然のお電話で申し訳ありませんが、直接お会いしてお話したい事があるので……少々お時間頂けませんか?勿論そちらの都合で構いませんので』
「ええ、まぁ……」
この電話が後の自分の生活を一変させる事を、龍矢は知る由もなかった。
約束の日。
指定した近所の喫茶店には、弁護士の絹川の他に一人の少女がいた。
金持ちのお嬢様学校として名高い私立の女子中学校の制服を着て、だが、夏服の半袖から出た彼女の腕や足には、包帯が巻かれていた。
「……彼女は?」
「あの、私、向日幸花(むかひさちか)といいます。今日はお呼び立てしてすみませんでした」
幸花、と名乗った少女が頭を下げる。
どうやら、実際に自分に用があるのはこの少女のようだ。
実の所、龍矢自身、何故弁護士が?というのは頭にあった。
だが、呼び出したのがこの少女なら話は別だ。
向日。
この姓はよく知っている。
“向日コーポレーション"といえば、知らない者はいないと思われる程の有名な大企業。
そして。
母親の実家の姓。
だが、その母も八年前に亡くなっているし、何より母は父と駆け落ちして結婚したのだ。当の昔に縁は切られている。
今更何故、しかもこんな少女が俺に何の用があるのだろうか。
……まてよ?
確か、彼女は……。
そう思って龍矢は記憶を辿る。
幸花。
聞き覚えがある。
この名前は確か。
目の前の少女に関する記憶を探り当てた所で、絹川が口を開く。
「先月、向日コーポレーションの社長夫妻が事故で亡くなられた、というニュースはご存知ですか?」
「はい」
確かプライベートで旅行に行った先で交通事故に遭ったとか、ニュースでは散々騒いでいた。
そのとき、夫妻の一人娘だけが奇跡的に助かったとか……。
という事は、やはり。
間違いない。
「彼女は奇跡的に助かった社長令嬢、ですね」
「ええ。そして、貴方の従妹でもある」