「幸花。頑張ってるか?」
 龍矢は、生徒指導室で一人与えられた課題をやる幸花の様子を見に来た。
「龍矢さん。……あれ、授業は?」
「今は空き時間だから。どう?大変?」
「うん、大変。特に数学がいっぱい出されちゃって……」
「へー数学ねー」
 抑揚なくそう言って、龍矢は内心直樹に対して毒づく。

 あのヤロウ……今度会ったらどうしてくれようか……?

「でもね?中間テスト、数学が少し悪かったから」
 幸花の意外な言葉に、龍矢は首を傾げる。
 担任をダシに準備室に来てはいたが、真面目に数学の質問も聞いていたし、勿論家でも龍矢が勉強を見てやった。
 だから、他の教科より勉強しているハズの数学の点数が悪いとは思えない。
「……何で?」
「最初のテストだからかな?中学の時の範囲も少しだけ含まれてて……その中に、多分私が事故の後一ヶ月ぐらい休んでた頃にやった内容の問題もあって……仕方ないよ」
 課題プリントもその範囲中心だし、と言って再びプリントに集中し始める。
「そっか……」

 暫くそのまま無言で幸花がプリントをやるのを見ていた龍矢が、徐に口を開く。
「……なぁ幸花」
「んーなぁに?」

「俺の事、まだ好きか……?」

 どうしても聞くのを躊躇われたこの言葉。実は今日が約束の日だ。
 そして、幸花の意識がプリントに集中している今しかないと思った。
 幸花が動きを止める。
「幸花は、俺のモノ……?」
 そう聞くと、幸花は真っ赤な顔でコクンと頷いた。
 龍矢は嬉しくなって幸花を抱き締めると、耳元で囁く。

「好きだよ、幸花……」

 そうして優しく触れるだけのキスをした。


 幸花。もう手離してなんかあげないから。そう思いながら。



=Fin=