龍矢と怜人がそんな話をしていると、遅れて春秋がやってきた。
「すみません、遅くなって!……あの、こちらの方は?」
「真嶋怜人といいます。どうぞよろしく」
そう言って怜人が名刺を差し出すと、春秋も名刺を交換する。
「弁護士の絹川春秋です。……『@HomeLife』の社長さんでしたか。それで、早速ですが今回の件は……」
「勿論、全面的に協力させていただきます」
怜人の言葉に、今まで警戒していた春秋も、ホッとした表情を浮かべた。
そうして龍矢、怜人、春秋の三人は、具体的な事を話し始める。
三人の話の内容は難しく、頻繁に法律の話も出て。
幸花は何となく疎外感を感じていたが、龍矢がずっと手を握っていてくれて決して離そうとしないのが、すごく嬉しかった。
それでも少し寂しくて、幸花は無意識の内に、龍矢の手をギュッと握った。
「ん。どうかした?幸花」
「ううん!何でもない。……お話の邪魔しちゃって、ごめんなさい……」
「……いいから。ずっと不安だったんだろ?」
「……うんっ」
龍矢はとても柔らかい笑みをくれて。
それでも怜人と春秋の手前、手を繋ぐだけに留める事にした。
話が纏まると、今度は今回の事を仕組んだ本人達の所へと行く。
「貴方方のされた事は、未成年の拉致、監禁に脅迫。その他に後見人変更の手続きの際にも、虚偽申請などの違法性も見られますし
……訴えに出ればこちらが確実に勝ちますよ?」
今回はこちらの対応も早く、しかも肝心の怜人が味方に付いた為、春秋の抗議に相手も折れざるを得なかった。
「じゃあ月羽矢理事長の件、よろしくお願いします」
改まってそう頭を下げる怜人に、龍矢は一瞬驚いた表情をする。
「ええ。……提携が結べなくても、俺のせいにするなよ?」
ニヤリと笑って龍矢がそう言うと、怜人もニヤリと笑う。
「まさか。それよりそっちこそ、これから大変だぜ?俺の親なんて、向日の枠からすれば氷山の一角だろうし」
「……分かってる。だけど今回の事で牽制にもなっただろうな」
そう言い合う龍矢と怜人は、何だか気が合うらしく、仲良くなったようだ。
「じゃあ、また今度。音々子にも話しておくから」
「あ、はい。お願いします」
「……音々子って?」
「あの……施設にいた時に一緒だった子」
「……そっか」
少し暗くなった雰囲気の中、怜人は少し明るめに言う。
「ま、再び会うって時にお互い元気ならいいんじゃねぇの?じゃあ俺は仕事あるんでこれで」
「では、私も失礼します」
怜人と春秋がそう言って去って行くと、龍矢は幸花に笑いかける。
「じゃあ俺達も帰ろっか」
「うん。……あ!そういえば龍矢さん、学校は?」
「あー……まぁ、理由が理由だし、どうにかなるんじゃないか?」
結局学校の方は、理事長の事前の配慮で、大事には至らなかった。
怜人の方は後日、月羽矢グループとの事業提携を結び、向日とは完全に手を切ったらしい。
こうして、幸花と龍矢にはいつもの日常が戻った。
「ねぇ、龍矢さん」
「ん?」
「いつもの日常って、実はすっごく幸せな事なんだね」
「……そうだな」
願わくば。
この幸せが、いつまでも続きますように。
きっとそれは、お金では得られない。
凄く凄く、大切なモノ――。
=Fin=