二人がロビーに降りると、丁度龍矢が玄関口から入ってくる所だった。
「龍矢さん!」
「幸花!」
 龍矢の姿を見つけた途端、幸花は嬉しくなって、ここがホテルのロビーだという事も忘れて思わず駆け寄り、その胸に抱き付いた。
「龍矢さん……」
「もう平気だ。俺が付いてるから。絹川さんも呼んだし、幸花は何も心配しなくていい」

 そうして龍矢は怜人に気付くと、幸花を庇うように自らの後ろへと隠す。
「敵意むき出しって感じ?おー怖」
 そう言いながら怜人は楽しそうだ。
「龍矢さん!この人は味方だよ?」
 怜人を庇う幸花の発言に、龍矢は少し目を瞠る。
「幸花……」
「そうそう味方。今の状況を簡単に説明しますよ」
 そうしてラウンジの方に移動すると、怜人がざっと大まかに説明をし、時々幸花が補足説明をした。


「従兄妹、ねぇ……」
「でだ。俺も今回の事には多少腹も立ててるし?個人的にもちょっとムカつく事が分かったから。奴らに一泡吹かせてやろうぜ」
「一泡吹かせる?」
 龍矢の言葉に、怜人は頷く。

「実は今、俺の会社に事業提携の話が来てるんだ。真嶋を通して向日からな」

「!」
「俺さぁ、家を飛び出して悪友達と今の会社立ち上げたんだよ。それこそ、資金から何から全部、自分達の力で。だから両親は手を出せない訳」
「それは凄いな……それで?」
「ウチとしても、向日が強引に進めようとしている事業提携の条件が合わなくて渋ってた所なんだ。向日の条件だと提携という名の吸収合併だ。 今迄は両親の手前、強く突っぱねるのもどうかと思ってたんだが……今回の事で、向日関係の人間には見切りを付けたい」
「具体的には?そう簡単には……」
 龍矢がそう聞くと、怜人はニヤリと口の端を上げ、悠然と答えた。

「月羽矢学園の理事長。確か月羽矢グループの総帥だろ?アポを取りたい」
「!向日に真っ向から挑む訳か!」

 月羽矢グループは元々、学校経営のみだったのだが、近年は多角経営で様々な事業にも着手し、今では向日に勝るとも劣らない規模にまで発展している。

「アイツら、汚い手を平気で使って来るだろうしな。月羽矢と提携できれば、これ以上心強い事はない。……可能か?」
 怜人の問いに、今度は龍矢が頷く。
「そういう事なら多分可能だ。理事長は話の分かる人だから。ただ、提携が結べるかどうかはあんた次第だ」
 試すような龍矢の言葉に、怜人は不敵な笑みを浮かべた。

「それは勿論」