≪「そんなの詐欺だ!」≫
「ね〜ぇ、一葉ちゃん」
「なぁに、ママ」
「ママ、結婚してもいいかなぁ?」
「……え?」
一葉の父親は、彼女がまだ小さい頃に蒸発してしまった。
その為、母親は女手一つで一葉を育ててくれた。
だが。
突然の再婚宣言に、一葉は一瞬何を言われたのか分からなかった。
「ま、ママ?再婚するの?」
「ええ、そうよ」
「誰と!?」
「同じ会社の野田島さんって方。ママ、彼にプロポーズされちゃったの」
そう言ってキャッと頬を染める母親に、一葉は少しだけ呆れる。
「……その人、ママが子持ちだって知ってるの?それでもいいって言ってるの?」
一葉はまだ高校生。再婚するとなると、一緒に暮らさなくてはならなくなる。
「知ってるわよ?だって、彼も息子さんが一人いるもの」
その言葉に、一葉は反応する。
「息子さんって、幾つ?」
「えっと……確か23だったかしら。大学を卒業したばかりだから」
それを聞いて、一葉はホッと胸を撫で下ろす。
それならきっともう働いて家を出ているだろう。
お兄ちゃん、という存在は欲しいが、一緒に暮らすとなると話は別だ。
「ママがしたいなら、私は反対しないよ?」
「本当に!?ありがとう、一葉ちゃん!」
そうして抱き付いてきた母親の次の一言に、一葉は固まる。
「これからは4人で一緒に暮らす事になるのねぇ」
「……ちょっと待って。4人……?私とママと、新しいパパの3人じゃなくて?」
「ええ。だって野田島さんの息子さんも一緒に暮らすもの」
大学を卒業してて。
自分の父親が再婚するっていうのに、一緒に暮らす?
それって。
それってなんか。
「あ、写真があるのよ。見る?」
「……見る」
せめて、どんな人が一緒に暮らすのか知っておきたい。
もしその“お兄ちゃん”になる人が変な人だったら、無理言ってでも一人暮らしさせてもらおう。
そう思って写真を見ると。
「えっと、最近の写真じゃないんだけどね?こっちがママのお相手の野田島さん。で、こっちがその息子さん」
「……カッコイイ」
「でしょー!?」
意外にもその人は格好良かった。
すっごく爽やかでカッコイイ、好青年!という印象の人。
というか、一葉の直球ど真ん中ストライク。100%好みのタイプ。
この人と一緒に暮らせるなら、もうどんな事だってしちゃう!
「ママ。絶対に結婚して!」
「おっけー。まっかせといて!取り敢えず今度、一度一緒にお食事する事になると思うから」
「うんっ!」
そうして意気揚々と出掛けた、初めての顔合わせを兼ねたお食事会で、一葉は愕然とした。
「初めまして、野田島洋一です」
そう言って頭を下げた目の前の青年は、だらしなくて格好悪い髭面のオッサンみたいな人。
服はヨレヨレ髪はボサボサ、おまけに一葉の大っ嫌いな無精髭。
お店はちょっとお洒落なレストラン風なのに、そんな格好でよく入ってこれたわね、という感じ。
何コレ。
あの写真で見た好青年はドコ?
ああもう。
「そんなの詐欺だ!」って、目の前の男に言ってやりたい。