≪ターゲット・ロックオン≫
恋愛なんて、ゲームみたいなもんだ。
相手を堕とせば自分の勝ち。堕とせなかったら負けという。
本気になるなんて馬鹿げてる。
愛なんて信じない。
そんなもの、この世のどこを探したって、ある筈ないのだから――。
渡塚陽平は、今年で大学三年になる。
勉強もそこそこできるし、ルックスも上の中程度には入る。
甘いマスクと、柔らかな物腰。知的な話し方の中には細やかな気配りもあって。
その為、陽平の周りには彼目当ての女の子がいつもいた。
だが陽平は、自ら近付いてくる女の子には興味が無かった。
自分の見てくれには見向きもしない女の子。
そういった子をゲーム感覚で堕とすのが好きだったから。
「……最近上玉がいねぇなー」
そう呟きながらタバコに火を点ける。
ごく親しい仲間と飲む時だけは、陽平は素の自分を見せる。
「おっ前キャラ変わりすぎー。女の前と俺等の前と、全然違うじゃん」
「そうそうー。タバコだって吸わねーし?言葉遣いだって、聞いてるこっちが寒くなりそうな程バカ丁寧だしー!」
からかうようにそう言う親友達に対し、陽平はニヤリと口の端を上げて言う。
「バーカ。ったりめぇだろ?女は自分をお姫様みたいに扱ってくれる男の方が好きなんだしよー。紳士的な態度とってりゃ、教授達の受けもいいしー?」
「はー。皆騙されてる、この腹黒男に騙されてるよー。もー公衆の面前でお前の正体バラしてやりたいねっ!」
「んなことしても誰も信じねぇんだから。ま、救いとしては?言い寄ってくる女には手ェ出さない事ぐらいかねー?」
「だから皆コイツの本性知らずに騒げるんだよなー。陰で泣かされた女は何人もいるだろうケド?」
「おいおい。俺はちゃんと、なるべく傷付かないように優しーく別れてやってんだぞ?ただ堕とす為だけのゲームに選んだ相手に、せめてものお情けでだなぁ……」
「だから!それを泣かしてるってんだよ。堕ちた途端に“はい、さよならー”はキツイだろ」
「なかなか堕ちそうにない女を苦労して堕とすのが楽しいんだろーが。なんつーの?難攻不落の要塞を攻略するっつーの?そんな感じ」
得意そうにそう言う陽平に、親友の一人が言う。
「お前、そういうシュミレーションゲームとか好きそうー。でもな、そういう事ばっかしてると、いつか足元掬われるぞ?」
この場の雰囲気にはそぐわない真面目な表情で。
だが陽平はそれを一蹴する。
「何?俺が本気で相手に惚れるとでも?ナイナイ。ゲームは所詮ゲーム。マジになるなんてそれこそナンセンスだね」
「……ま、お前がそう言うならそれでいいけど?で、今度は誰を狙う訳?」
「あー、決めてねぇ。最近上玉いねぇし。他の大学に潜り込んで探すか……今度入ってくる新入生に期待、かな」
「大学入って早々、コイツの毒牙に掛けられる憐れなイケニエはどんな子かなー」
そんな風に話しながら飲み会の夜は更けていった。
そうして後日、陽平の所属するサークルに新入生が入部してきた。
それぞれが自己紹介する中、陽平は一人一人観察して品定めをする。
その中で。
「細真雪です。……よろしくお願いします」
少し控えめに挨拶をした女の子。
見た目はパッとしないが、大人しそうで男慣れしてなさそうな所が、陽平の目を引いた。
いかにも、男の人は苦手です、というタイプ。
暫くは要観察という所だろう。
それから数日、それとなく彼女を観察していると、どうやら友達に引っ張ってこられてサークルに入ってきたようで。
友達意外と話している所は殆ど見ないし、さり気なく傍に寄ると、警戒しているのがありありと分かる。
人見知りが激しい上に、睨んだ通り、男は苦手らしい。
堕とし甲斐がありそうだ。
そう思って陽平は人知れず笑みを溢した。
ターゲット・ロックオン……ゲーム・スタート。