「生田!?」
「早坂センセ!?」
それは、麗らかな春の日差しが降り注ぐとある休日の午後の事だった。
私、生田咲(いくたさく)と、その担任、早坂直樹は、実に思いもよらない場所で出会った。
≪シークレット・スペース≫
高校に進学するにあたり、私は思い切って県外の高校を受ける事にした。
“私立月羽矢学園”
都内でも有名なマンモス校であるその学校は、小中高一環校で、高等部に至っては様々な学科があり、生徒総数は軽く五千人を超える。
校内の施設、設備は充実しており、その敷地内には高等部から入れる学園寮まで完備してある。
だが、私は寮には入らず下宿生活をしている。
理由は簡単。寮にすると、下手をすれば学園の敷地内から一歩も外に出ない、という生活になりそうな気がしたから。
で。
今まさに咲がいるのはその下宿先なのだが。
咲がお世話になっているこの家は、元々下宿などはやってはいなかったのだが、この度長女が結婚したとかで部屋が一つ空いてしまい、それなら誰かに貸そう、という事になったらしい。
だから咲以外の下宿人はいない。
……なのに何故先生がこの家にいるのだろうか?
だめだ。頭の中がパニックになる。
一度冷静にならなきゃ。
「おい、いく……」
「ちょっと待って下さい」
口を開いた先生を手で制し、気を落ち着かせる為、眼を閉じ、深く、ゆっくりと息を吐く。
そうして、同じようにゆっくりと眼を開け、目の前で困惑している先生の眼を見据えて言う。
「何で先生がここにいるんでしょうか?」
すると直樹は、はぁ、と溜息を吐く。
「……それはこっちのセリフだ生田……」
そうして眉間に皺を寄せ、難しい顔をする直樹の口から発せられた言葉。
「何でお前が俺の実家にいる……?」
実家。
え。
……先生の?
「えぇ〜〜〜〜〜!?」
穏やかな陽気の午後。廊下に咲の絶叫が響き渡った。