現在俺には付き合っている相手がいる。
 生田咲・女子高生。……俺の生徒。
 二人の逢瀬の場所は、誰にも秘密。
 二人の関係も勿論――絶対に秘密。


≪シークレット・リレーション≫


 最近、直樹には一つ、困った事があった。
 それは、ある一人の女生徒の存在。
 勿論それは、愛しい彼女である咲の事ではなく。
 直樹が担当する数学の受け持ちクラスの生徒で、神沼志保という生徒だ。

 実際、何をそんなに困っているのかというと、彼女は直樹に気があるのだろう、よくベタベタと馴れ馴れしく触れてくる事だ。
 一年次の最初の大きな行事である野外生活の時も、それが原因で咲に余計な事を口走ってしまい、傷付けてしまった事がある。
 ……まぁ、そのお蔭で現在付き合っていると言えなくもないが。

 話が逸れたが、とにかく直樹は困っている。
 昔は“来る者拒まず、去る者追わず”の直樹だったが、それでもあまりにもしつこくベタベタしてくる女は嫌いだったし、何より今は、咲という彼女がいる。
 咲が見たら気を悪くするだろうし、そんな事でケンカや、まして破局なんて御免だ。
 だからといって、相手は一応生徒。無碍に扱う事は出来ないし、下手に傷付けてしまえば、最近の親は色々と煩い。

 自分の心情と教師の立場で板挟みになり、どうにも身動きが取り辛く、直樹は段々困っているを通り越して、苛々してきていた。


 どうやらそれは、咲にも伝わっていたらしい。
「直樹さん、疲れてるんですか?」
 心の癒しを求めて学校帰りに寄った実家で、直樹は咲にそう指摘されてしまった。
「……まぁ、色々あってな」
「だったら、わざわざココに寄らないで、真っ直ぐ帰って体を休めた方が……」
 心配してそう言う咲に、直樹は彼女の頬を両手で優しく包むようにして、自分の方を向かせる。
「心配してくれるのは嬉しいが、生憎俺は精神的に疲れてんだよ。ココに寄るのは疲れた心を癒す為だ」
 そう言って直樹は、咲にそっと口付けを落とす。
「咲とこうして二人でいる時が、一番落ち着ける」
「直樹さん……」
 直樹にギュッと抱き締められ、咲はその胸元に頬を寄せて目を閉じる。
 咲もこうして直樹に抱き締められている時が一番好きなのだ。
「なぁ、咲」
「はい」
「色々ごめんな?あんまり構ってやれないし……」
「そんな、謝らないで下さい。直樹さん、こうして学校帰りに寄ってくれたりするじゃないですか」
 そう言ってはにかんだ笑みを浮かべる咲に、直樹は愛しさが込み上げてくる。

 それと同時に、今抱えている問題を、なるべく早く片付けようと心に決めた。